こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カプチーノはお熱いうちに

otello2015-07-22

カプチーノはお熱いうちに Allacciate le cinture

監督 フェルザン・オズペテク
出演 カシア・スムトゥアニク/フランチェスコ・アルカ/フィリッポ・シッキターノ/カロリーナ・クレシェンティーニ
ナンバー 160
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

第一印象は粗野で短気で教養もデリカシーもない差別主義者、二度目に会った時はその確信を深めたのに、いつしか彼のバイクの後ろ席にまたがっている。美貌を鼻にかけた高慢な女と思っていたのに、気が付くと彼女を視線が追っている。土砂降りの雨の中、最悪の出会い方をした男と女が互いに惹かれ、偶然が運命に思えてくる。物語はそんな彼らが13年の時を経て迎えた倦怠期を乗り越えようとする姿を描く。古い石畳と美しいビーチ、人工と自然、歴史と現代が交錯する南イタリアの町で繰り広げられる人間模様は、死を見つめることで生の喜びを際立たせる。心の命ずるままに行動するのが後悔しない秘訣、考えたり迷ったりして立ち止まるならば思い切ってアクションを起こすべしとこの作品は訴える。

カフェのウエイトレス・エレナは、同僚のシルヴィアの恋人が不躾な男・アントニオと知って不愉快になる。ところが、シルヴィアとの仲に行き詰っていたアントニオはエレナの気の強さを忘れられなくなっていた。

大胆な省略と緻密な構成のなか歳月は流れ、若かったふたりは中年に差し掛かっている。エレナは友人と共同経営するカフェが軌道に乗っているが、髪は後退し腹は出て浮気もするグータラ亭主に成り果てたアントニオにうんざりしている。上昇志向のエレナと向上心のないアントニオ。夫婦間の収入格差、特に妻の稼ぎが圧倒的に多い夫婦の例に漏れず、夫はふて腐れている。もはや破局は時間の問題と思われた時、エレナが病に侵されていると判明する。やつれ果てたエレナを病院のベッドで抱くアントニオの情の濃やかさ、彼本来の愛と優しさが胸を打つ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

病院から抜け出したエレナがタクシーの窓越しに見る街の風景が哀しみ帯びている。この世の見納めと覚悟したのだろう、だが、アパートに帰ったエレナは幸せな幻覚を見る。アントニオを選んでよかった、この町で生きてよかった、そう思わせる回想シーンは、己の人生と関わった人々への感謝と慈愛に満ちていた。

オススメ度 ★★★

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