大地に生える草木の枝葉から動物たちの毛並みの一本一本まで、精細なディテールはまるで実写映画のごときハイパーリアル。だが、動物たちが状況に合わせて演技をしセリフを口にする設定はソフトバンクのお父さん犬以上の衝撃だ。アニメや、俳優が演じる舞台なら違和感がなかったが、本物の動物にしか見えないキャラクターが音楽に乗って歌い踊る世界観になじむまで少し時間がかかった。物語は陰謀によって追放された王子の成長を描く。父は強さとやさしさを兼ね備え百獣に君臨していが、身内には非情になれない。ねじれた野心を持つ叔父はその甘さに付け込んだ。幼い主人公は放浪・放蕩生活を経て、やがて自らに流れる王の血に目覚める。もはや語りつくされた展開ながら、精緻に再現された映像には目を見張る。
ライオンが支配する王国の継嗣・シンバは、叔父・スカーの謀略にはまり父王を失う。スカーはハイエナたちを従えて新王に即位、父の死の責任を取らされたシンバは王国を去る。
行き倒れになっていたところを雑食動物コンビに拾われジャングルで暮らすようになったシンバ。動物ではなく昆虫を食べて大きくなったシンバはすっかり能天気になって “人生” を楽しみ、王国での黒歴史は封印している。しかし過去は彼を放っておいてはくれず、王国の危機が伝えられる。その過程でハイエナが醜く狡猾で貪欲な獣と描写されているが、生態をよく知らない人間が抱くイメージを無理強いされているようでかわいそうだった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
特別な運命の星の下に生まれついた者は大衆に対して義務を負い、自己犠牲を求められる。米国のヒーローものにありがちな価値観はこの作品でも健在。傷ついてもあきらめずに戦い続け、最後には勝利を収める姿がいまだに理想とされれているのだろう。確かにかっこいい。男らしい。でも21世紀ではそんな思想は押しつけがましく感じられるのだ。世界を救うために個人が身を捧げる必要はないという「天気の子」的発想のほうが、やっぱり今の時代にはマッチしている。
監督 ジョン・ファヴロー
出演 ドナルド・グローヴァー/セス・ローゲン/キウェテル・イジョフォー/アルフレ・ウッダード/ビリー・アイクナー/ジョン・オリヴァー/ビヨンセ・ノウルズ=カーター/ジェームズ・アール・ジョーンズ
ナンバー 189
オススメ度 ★★*