ポイント ★★★
DATE 07/1/29
THEATER シネアミューズ
監督 阪本順治
ナンバー 19
出演 風吹ジュン/田中哲司/常盤貴子/三田佳子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
長年連れ添った夫婦なのに、夫には妻が知らなかった秘密がたくさんある。夫の死後それに気づいた妻は、自分の前で見せる顔と他人の前で見せる顔のギャップに戸惑い、婚姻関係などいかにはかないものかを知る。専業主婦として家族に尽くしてきた女性が、初めて自分の足で立ち自分の頭で考えなければならなくなったときどのように変化するか。決してか弱いものでも守られるべきものでもなく、腹をくくった女の精神力が作品を力強いものにする。
夫に急死された敏子は、葬儀の後夫の携帯にかかってきた電話を受け、夫の浮気を知る。さらに遺産目当てで家に帰ってきた息子と娘の振る舞いに腹を立てた敏子はプチ家出をし、カプセルホテルで不思議なばあさんから話を聞かされる。
開き直った女のしたたかで打たれづよいこと。ここでは男の小ざかしい計算など微塵に打ち砕かる。息子は家族ともども家に転がり込もうとするし、そばの会で知り合った男は露骨に体を求め、カプセルホテルの支配人は叔母の入院費を肩代わりさせようとする。あわよくばという思惑で敏子に近づいた男たちはみな返り討ちにあう。それは「損をしないで生きていこう」という女と「一発当ててやろう」という男の差。まずしっかりと守りを固めている敏子のような女は、そんな男の心を見透かし、決して言いなりにはならない。そのあたり、世間知らずの主婦が徐々にたくましくなっていく姿を風吹ジュンが好演。夫の愛人役の三田佳子ともども、一人の男に振り回されているようで、実はしっかりと自分の残りの人生の保障をしている。
居酒屋で一人ジョッキを片手にビールを飲みながら鉄板焼きをほおばる敏子。このシーンに込められた「女が一人で生きて何が悪い」という開き直りとも思えるメッセージは強烈だ。他の女との間に家庭を作った男に別れを告げ、新たな人生を進む決心をした「ひまわり」のヒロインのように、ラストのシーンの敏子は凛としている。女は過去を振り返るより現在を生き、未来を見るものだということを改めて思い知らされる。特に男との関係においては。。。