君のためなら千回でも THE KITE RUNNER
ポイント ★★★
DATE 08/2/10
THEATER WMSY
監督 マーク・フォースター
ナンバー 36
出演 ハリド・アブダラ/ホマユン・エルシャディ/アトッサ・レオーニ/アーマド・カーン・マーミジャダ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
名誉を守るためには命を惜しまない気位の高さ、子供の持つ無邪気さと残酷さ、社会的身分の差。ひとりのアフガニスタン人が体験する数奇な半生を、ソ連の侵攻からタリバン支配までの時代を背景に描く。その根底にあるのは少年時代の友人への思いと後悔。兄弟同然に育った2人がなぜ離れ離れになり、激動の波に飲まれていったか。理性では割り切れない微妙な感情の動きを丁寧に掬い上げてエピソードを積み重ねる手法で、大人の事情を理解し始めた年頃の、硬いけれど傷つきやすい繊細な心を見事に再現する。
広い屋敷で育てられたアミールは、同じ敷地内に住む使用人の息子・ハッサンと親友同士。凧合戦の日にハッサンがリンチを受けているのを知りながら助けなかったことにアミールは罪悪感を持ち、ハッサンと距離を取り始める。やがてソ連軍が侵攻、アミールは父と共に米国に亡命する。
アミールとの間に厳然と存在する階級。ハッサンはそれを意識し始め、アミールに対して召使の目になり、何をされても反抗せず受け入れる。決して卑屈になっているわけではなく、落ちた果実をアミールに投げつけられても更に自分の頭にこすりつけるハッサンは、アミールに仕えることに誇りさえ覚えているようだ。さらに泥棒の濡れ衣を着せられ、すれ違いが決定的になっても、それが運命とハッサンは逆らわない。友達のままでいたいと思っているアミールはそんなハッサンの態度が気に入らず、疎遠になっていく。一足先に大人の分別を身につけたハッサンに対するアミールの寂しさとあきらめ、もどかしさといった複雑な気持ちが切ない。
20年後、ハッサンが異母弟と知ったアミールは、彼が遺した息子を探しにタリバン支配下のアフガンに向かう。街は廃墟になり、野蛮な連中がのさばり、石打ち処刑が行われている。そんな地獄のようなところから甥を救出し米国に連れ帰るアミール。命を張っても借りは必ず返す、大空に舞う凧はどんな強い逆風を受けても決して流されない民族のプライドを象徴しているようだった。