こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

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女たちは髪を隠すことなくおしゃべりに興じている。若者たちはウォークマンで音楽を聴き、人々は欧米の映画を楽しんでいる。だが、そんな活気に満ちた時間はあっけなく崩壊する。物語は、イスラム原理主義者に支配されたアフガニスタンから亡命した青年の苦難を描く。投獄や拷問の恐怖からは逃れられたものの、不法滞在者として搾取される日々が続く。家族はいないと偽ってきた。ゲイであることを恥じ、カミングアウトできなかった。兄と母を残して逃げたことに胸を痛めていた。わずかな支援で何とか生き延びようとする主人公の言葉は、体験してきた者だけが知るリアリティに満ちていた。新政権下のモスクワでマクドナルドがオープンするが、主人公たち兄弟が遠巻きに眺めるしかできないあたりが、難民と民主主義の距離を象徴していた。

ソ連軍の侵攻を退けたものの米国の介入で内戦状態になったアフガン。パイロットの父が連行され消息を絶つと、残された母とアミンら4姉兄弟はモスクワに脱出する。

銃を持ったゴロツキのような連中がいつしか警察を名乗っている。アミン一家はいい暮らしをしていて原理主義者にとっては格好の餌食。モスクワではビザ切れを理由に息をひそめるようにして暮らしている。スウェーデンにいる兄からの仕送りだけが頼りで、質の悪い密出入国ブローカーを利用する。トラックの荷台に乗り極寒の森を抜け小さな漁船の船倉に閉じ込められて西を目指すアミン一家。助かったと思ったのに、さらなる過酷な運命にさらされる難民たちの姿は、人間が生きるには衣食住以外にも希望が必要であると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2度目はアミンだけが脱出に挑む。割ときちんとしたブローカーで、今度は難民として受け入れられるが、家族は殺されたことになっているのでなかなか連絡できない。やっと再開した兄に自分の性的し好を告げるが、兄がアミンに示した対応は、愛情と理解に満ちたものだった。男は家族を守らなければならない、そんな古い考え方も非常時には役に立つものだ。

監督     ヨナス・ポヘール・ラスムセン
出演     
ナンバー     110
オススメ度     ★★★


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