こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

紀元前1万年

otello2008-05-02

紀元前1万年 10,000 B.C.

ポイント ★★
DATE 08/4/29
THEATER THYK
監督 ローランド・エメリッヒ
ナンバー 103
出演 スティーヴン・ストレイト/カミーラ・ベル/オマー・シャリフ/クリフ・カーティス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


数百頭のマンモスが地響きを上げて暴走し、巨大な肉食怪鳥がうなりをあげて襲ってくる。さらに雲に届かんとする建築中のピラミッドのために石を引く無数の奴隷。ヴィジュアルとサウンドにふんだんにカネをかけ、12000年前の人間と自然、そして失われた高度な文明をスクリーンに再現する。そこで展開するのは、旅に出た血気盛んな若者が仲間を得、やがて自分の使命と運命を自覚して偉業を成し遂げるという典型的な英雄譚。つまり年代を限定する意味はなく、タイトルは単なるファンタジー映画の記号に過ぎない。


狩猟部族の若者・デレーは一人でマンモスを倒し、リーダーの証である白い槍を手にする。そんな時馬に乗った軍団が村を襲い、デレーの恋人・エバレットと十数人の村人を連れ去る。デレーは彼らを追って、3人の仲間と旅に出る。


先進民族が未開人を制圧するときの圧倒的な戦闘能力の差。洗練された騎馬兵に槍しか武器を持たないデレーの一族はなす術もなく略奪される。石器と骨の文化で暮らし外界を知らない孤立した部族には、馬や金属などをもつものはおそらく人知を超えた神か悪魔に見えたはず。その驚きと恐れ、そしてあきらめの境地に至る村人の心理がリアルだ。おそらく16〜18世紀にヨーロッパ人に侵略された南米やアフリカの原住民たちはこんな様子だったと思わせる。


予言や伝説、巫女や神官が支配的な力を持っていた時代だから、細かい矛盾には目をつむれというのだろうか。部族のシャーマンである老婆・巫母は予知能力や千里眼の持ち主だが、一方でピラミッドの主である指導者も神と崇められている。この神はデレーの投げた槍に貫かれて死ぬのに、矢を浴びて果てたエバレットは遠く離れた巫母から命をもらい息を吹き返す。こんなご都合主義にはつきあいきれない。また「青い目の子供の伝説」の主人公は一体誰のことだろう。デレーとエバレットの子供が新世界の王として君臨するという予告なのか。もう少し物語のディテールを煮詰めてほしかった。


↓その他の上映中作品はこちらから↓