ポイント ★★
DATE 09/3/14
THEATER THYK
監督 真田敦
ナンバー 62
出演 岡田将生/倍賞千恵子/長谷川潤/松坂慶子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
透き通った海、抜けるような青空、濃い緑。そういった自然のほかに映画館や商店、ただの道路や古い自動車といった人工の風景すら絵葉書を切り取ったような美しさ。天国に一番近い島、人は死と近くにあるけれど、決して恐れているわけでもなく、しばしの別れと受け止めている。だが、ゆったりと流れる時間と同様、そこで描かれる物語も起伏に乏しく、主人公と同様退屈な日常をぶらぶらしているだけ。そもそも彼がなぜこの街に流れてきたのか、過去も現在も不明の若者では魅力を感じない。
伝説の「月の虹」を見るために恋人とハワイ島にやってきたレオは目的を果たせず帰国、半年後再びやってきてホノカアという小さな街の映画館に住み着く。ある日、ビーというばあさんと知り合い、毎日夕食を食べにくるように言いつけられる。
ビーはレオに50年前に亡くした夫の面影を見ているのか、顔は似ていなくてもつかみどころのない雰囲気に惹かれている。それまで猫以外誰も食べてくれなかった手料理をレオにふるまう姿はまるで恋する乙女だ。いつも男にだまされる女のドラマを見ているところを見ると、もしかして夫は死んだのではなく彼女を捨てて逃げたのかもしれないが、彼女は多くを語らない。ビーの料理、特に評判の良いマラサダにまつわる秘密だけでも詳らかにすれば、もっと素晴らしいな展開になったはずだ。
やがてレオにマライアという女友達ができ、夕飯をすっぽかす。さらに彼女と夕飯を一緒に食べに行った時もケーキでビーの気持ちを踏みにじる。そこでビーは、マライアにアレルギーを起こすピーナツを食べさせるという幼稚な仕返しをする。その因果かビーは視力を失うが、おかげで「月の虹」を見ることができる。このあたりビーが何者であるかますます謎めいて、ほとんど明らかにせずに彼女は姿を消す。ビーはいったいレオに何を伝えたかったのか、レオはビーから何を学んだのか、結局よく分らず、輝くような情景とレオの無邪気な笑顔にごまかされてしまった。これでは、表現に抑制が効いているというよりも、単に内容が乏しいにすぎないと思えてしまう。