こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Disney’s クリスマス・キャロル

otello2009-11-17

Disney’s クリスマス・キャロル A CHRISTMAS CAROL


ポイント ★★*
監督 ロバート・ゼメキス
ナンバー 271
出演 ジム・キャリー/ゲイリー・オールドマン/ロビン・ライト・ペン/ボブ・ホスキンス/コリン・ファース
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


誰もが他人に優しくなれ、微笑みを交わすことができるはずのクリスマス。そんな世間とは無縁であるかのように己の世界に閉じこもり、銭勘定しか頭にない男が、一晩の奇跡で生まれ変わる。幸せだった過去を顧み、人間関係よりもカネを大切にする現在を鳥瞰し、来るべき孤独な最期を予感させるという有名な物語を、めくるめくCGの表現力で絵本のような味わいが残る映像に仕上げている。眼光鋭く曲がった鷲鼻がいかにも守銭奴という風貌に、主人公のキャラクターが凝縮されている。


金融業のスクルージの元に7年前に死んだ共同経営者の亡霊があらわれ、3人の精霊が現れると予言する。第1の聖霊スクルージを過去に連れて行き、第2の聖霊は彼の周囲の人々の現在を、第3の聖霊スクルージにある男の死を彼に見せる。


映画は、ディケンズの原作通りに映像化され、登場人物や舞台設定も原作に忠実。おそらくこのストーリーに初めて触れる子供たちに向けた映画化なのだろう、それでもロンドンを俯瞰したり、風に舞う羽の視点で通りを行きかう人々の間をすり抜けたりと、目を見張る視覚的イメージの連続で新しい命を吹き込んでいる。また、金庫と鎖にがんじがらめにされた共同経営者の亡霊はおどろおどろしく、ろうそくに似せた第1の聖霊はチャーミングで、CGによって解放された彼らの動きの自由度がイマジネーションを刺激する。


過去を悔い、現在を改めれば、未来は変えられる。あまりにも寂しい自分の葬儀と、家族を大切にしている従業員の息子が死ぬビジョンを見せられたスクルージは、甥との関係を修復し、翌朝からは誰にでも優しく接し気前よく喜捨するようになる。富める者は貧しいものに分け与え、幸せはみなで分かち合う。満ち足りた人生を送る秘訣はいつの時代も変わらない。自由主義経済の破たんで格差が拡大し、再びスクルージのような経営者が跋扈している現代への警鐘とも思える、今回の映画化だった。