人は後ろに歩き、クルマは猛スピードで後退し、弾丸は標的から銃口に戻っていく。動画を巻き戻すかのように逆行する時間の流れ、だが自分たちの時間は順行している。初めて体験する異次元の世界、いまやCGによって想像力さえあれば表現に不可能はなくなったが、こんな不条理までヴィジュアル化するとは。。。考えれば考えるほど混乱する、もはや直感に従って受け入れるのみ。物語は、第三次世界大戦を誘発させる装置を巡って、スパイと武器商人が虚々実々の駆け引きを繰り広げる姿を描く。物理学の進歩は一方通行だった時間軸を選択可能にした。「過去」は変えられる。「未来」も予知できる。ならば「現在」を認識しているこの主体はいったい何なのだろう。映画は主人公の稀有な冒険を通じ、科学はどこまで人間を幸福にするのか問いかける。
テロ制圧に失敗、身分を消してよみがえった「男」は、ある国際組織から核物質の奪還を命じられる。「男」はセイターという武器商人がキーパーソンと知って、彼の妻・キャットに近づく。
セイターに自由を奪われているキャットから情報を得た「男」は人類の運命を握る核物質を強奪するために壮大な計画を立てる。航空機を金庫が入った建物に激突させ厳重な警備を突破したり、移送中のトレーラーを高速道路上で四方から囲み屋根から侵入したり。大掛かりな仕掛け、危機また危機の手に汗握る見せ場の連続の中で、この作品のテーマでもある「逆行する時空」がシンクロし、複雑に絡み合った要素が奔流のごとくスクリーンからあふれ出す。合理的な解釈は不能、ただただ圧倒的な映像の洪水に心身を浸し、主人公と感覚を共有するのみだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
そして、いよいよセイターは人類滅亡の陰謀を実行に移す。それを阻止するために、「男」は援軍と共に過去と未来からセイターを挟撃する作戦をとる。銃撃と爆破、派手な戦闘の中で時間軸が交差するシーンは、もう慣れたはずなのにやっぱり強烈な違和感はぬぐい切れない。一度では楽しみ尽くせない、「2001年」を見た時以来の衝撃だった。
監督 クリストファー・ノーラン
出演 ジョン・デビィッド・ワシントン/ロバート・パティンソン/エリザベス・デビッキ/マイケル・ケイン/ケネス・ブラナー
ナンバー 157
オススメ度 ★★★★★