こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジョニー・マッド・ドッグ 

otello2010-03-13

ジョニー・マッド・ドッグ JOHNNY MAD DOG

ポイント ★★★
監督 ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
出演 クリストフ・ミニー/デジー・ヴィクトリア・ヴァンディ
ナンバー 60
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


あどけなさの残る顔なのに目に宿るのは怒りと憎悪。筋肉のついていない華奢な体にもかかわらず、自動小銃の扱いと交戦時の身のこなしは一人前の軍人。投降した民間人を殺す過程で、仲間に見くびられないように虚勢を張りより凶暴になっていく少年たちの姿が悲しい。彼らは消耗品でしかないのを理解しているのか、そのうっ憤を晴らすために引き金を引いている。それは、自分たちをこんな境遇に追いやった運命への復讐、映画は、ひとりの少年兵を通じてリベリア内戦をリアルに告発する。


反政府軍兵士のジョニーは“マッドドッグ”のあだ名を持つ少年兵部隊のリーダー、村やTV局を襲い略奪の限りを尽くす。ある日、キャンプにいた政府側の少女を連れ出し、自分の女する。


村人を空き地に集め、まだ10歳くらいの子供に銃を持たせて彼の父親に向けて撃たせる。ジョニーや他の少年兵もそうやって無理矢理徴兵されたのだろう。良心の呵責を消すためには良心そのものを捨てなければならない、そんな強迫観念が彼らを殺戮に駆り立てている。この地ではそれがシステムとして機能しているところが恐ろしい。少年の未熟な心理を巧みに利用する反政府軍の大人たちのずるさと残酷さ、その根の深さがリベリアの現実なのだ。一方で恋人を射殺されたジョニーが涙を流すシーンで、彼の感情の中にも人を愛する気持ちがわずかに残っていることをうかがわせる。


やがて、反政府軍は首都を制圧し内戦は終わる。ジョニーの上官は素早く転身し、もはや用ナシになったジョニーたちは切り捨てられる。そこでかつて作戦展開中に出会った少女と再会、彼女の歓心を買おうとするが、拒絶された上に銃床で打ちすえられる。少女は怒りと憎悪、そして哀しみに満ちた瞳でジョニーを見つめる。彼女の打擲を甘んじて受けるジョニーは己の罪に気付いたのだろうか。ジョニーもまた戦争の被害者などといった甘っちょろいヒューマニズムはここにはない。人間性を失うのが戦争を生き延びる秘訣ならば、人間性を失ってしまっては戦場以外では生きていけないという皮肉が利いていた。