こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハングオーバー!

otello2010-07-12

ハングオーバー! HANGOVER

ポイント ★★★
監督 トッド・フィリップス
出演 ブラッドリー・クーパー/エド・ヘルムズ/ザック・ガリフィアナキス/ヘザー・グラハム/ジャスティン・バーサ/マイク・タイソン
ナンバー 166
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


泥酔し、二日酔いの頭痛をかかえたまま朝目覚めると、あるべきものが消えていてないべきものが存在する。何が起きたのかまったく覚えておらず、状況を解明するために残された手がかりを集め、失われた記憶の断片を手繰り寄せる。自分たちがしでかしたのは冗談で済まされるのか、それとも命が狙われるような致命的な失敗なのか、映画はコメディタッチの中にも時折リアルな暴力を盛り込んで、本来笑うべきシーンに不吉な予感を漂わせ、腹の底から笑うのが後ろめたいという不思議な感覚を味あわせてくれる。


結婚式を控えたダグは友人のフィル、ステュー、アランの4人で、独身最後の夜を楽しむためにラスベガスに行く。早速夜の街に出撃するが、翌朝ホテルで目覚めるとダグの姿がなく、代わりに赤ちゃんとトラが部屋にいる。ダグと赤ちゃんの親を探すためにチャペルに行くとステューがストリッパーのジェイドと結婚式を挙げていた事実が発覚する。


ステューは、何事にも口うるさく彼を束縛する恋人に本音ではうんざりしていたのだろう。ドラッグ入りの酒で解放された魂は彼女からの自由を求め、祖母の形見の指輪をジェイドに贈ってしまう。そして己の歯を抜いたのは歯科医としての社会的な殻を破りたかったから。ダサ男のアランもまたブラックジャックに才能を見出すなど、これは彼らの自己発見の旅でもあるのだ。酔っ払った一夜の後始末と見せかけて、実は彼らのうっ屈した思いをトレースする見事な構成には舌を巻く。


◆以下 結末に触れています◆


結局ダグは無事発見され、4人とも結婚式にもギリギリ間に合う。その席で、問い詰める恋人に、ついにステューは堪忍袋の緒が切れて激しく言葉を返す。言いなりになるばかりの彼がやっと反撃した瞬間、胸によぎったのはジェイドだったに違いない。恋人が軽蔑している職業のジェイドのほうが、ステューを人間として敬意をもって接してくれる。本当に愛するべき人はだれであるかをステューに気付かせ、彼に人生に立ち向かう勇気を与えただけでも、「ベガスのバカ騒ぎ」は有意義だったのだ。