こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

半次郎

otello2010-08-07

半次郎

ポイント ★★*
監督 五十嵐匠
出演 榎木孝明/AKIRA/白石美帆/津田寛治/坂上忍
ナンバー 187
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


顔の横に真っ直ぐに構えた剣を、奇声を発しながら振り下ろす。薩摩独特の剣術は時代劇で見慣れた凛とした剣道の型を模した殺陣とは一味違い、野性味あふれる躍動感に満ちている。1対1の真剣勝負ではなく、敵味方入り乱れる戦場においてこそ実力を発揮する剣、いまだ武士の魂に殉じようとする薩摩の兵士は小銃や機関銃を持つ政府軍に対して剣を高く掲げて突撃していく。それはまさに滅びゆく者の美学、次々に銃弾を浴び、銃剣を突き刺されても仁王立ちしたままカッと目を見開いて敵をにらみつける。映画は西南戦争で敗れた薩摩の指揮官の生きざまを通じ、己の意地を貫き通す美しさを描く。


幕末、薩摩の貧乏侍・半次郎は西郷隆盛に師事して上洛、公家の警護で名をあげる。さらに鳥羽伏見の戦いで手柄を立て、明治政府では陸軍少将に任じられる。しかし、大久保利通と袂を分かち野に下った西郷を追って半次郎もまた薩摩に帰る。


政府による言論統制、薩摩への弾圧に耐えかねた青年たちの不満が爆発、警官を襲ったことから薩摩と政府の間の戦争が起きる。近代的装備の政府軍に対し、半次郎らはゲリラ戦などで応戦するが戦力差は圧倒的。だが、窮地にたてばたつほど自分を鼓舞し味方を奮起させる半次郎のカリスマ性で、薩摩軍はなんとか持ちこたえる。この豪胆で人情に厚い男を榎木孝明は非常にテンションの高いダイナミックな動きで演じ、理想を追い戦いに生きた半生を見事に演じきっている。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、京で知り合い恋仲となったさとという娘の存在が、物語に花を添えつつ、最後に足を引っ張っている。倒幕派の煙管屋に世話になった時にお互い惹かれあうが、革命に身を投じる覚悟の半次郎は彼女を諦める。明治になって一度は再会するも、さとが堕落した生活を送る半次郎に捨て台詞を残して去っていく。そこまではよいが、その後なぜか女の身で単身戦場にまで半次郎を追いかけるのだ。しかも、政府軍兵士を押しのけて、銃弾に倒れた半次郎の遺体にすがりつくというリアリティのなさ。ラストシーンするにしては、半次郎の彼女を想う気持ちが足りない気がする。