こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

島守の塔

「生きて虜囚の辱めを受けず」。戦時教育を受けてきた娘はきっぱりと言い放つ。敵の軍靴がすぐそばまで迫ってきている中、非戦闘員であっても決死の覚悟をしなければならないのだ。物語は、米軍の攻撃を受ける沖縄で最後まで市民の命を守り通そうとした2人の男の苦悩と葛藤を追う。駐留日本軍幹部は最初から時間稼ぎの捨て石にされたとわかっている。そのためには民間人の犠牲も不可避とする司令部に対し、民間人を守るのが官僚の務めと県知事はかたくなに抵抗する。思いを同じくする警察幹部も知事に協力を惜しまない。大勢の人々を効率よく移動させるにはチームワークが必要と考える彼らの共通点は元野球選手だったこと。全員が同じ目標に向かいつつ助け合う、その思いを真新しい野球ボールが象徴していた。

沖縄県知事として単身赴任してきた島田は、秘書の凜に諫められても県民との交流を欠かさない。やがて戦況は悪化、米軍の空襲や艦砲射撃が始まると、島田は軍部の横暴に耐えられなくなる。

凜は筋金入りの軍国子女で、神国日本は神風によって勝利すると本気で考えている。現実派の島田は大本営プロパガンダには乗らず、戦況を冷静に見つめ民間人の安全を最優先させている。家族が機銃掃射されても泣き言は言わない凜も、島田に仕えるうちに少しずつ価値観が揺れ始める。下級兵士にパワハラを受け自分が間違っていたことを悟るシーンは、理性が人間を人間たらしめると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高校・大学と野球に打ち込んだ日々を、島田はたびたび思い出す。アメリカで生まれたベースボールを野球という日本文化に昇華して若き日は楽しんでいたのに、日米開戦後は歪んだ精神性だけが抽出された上、ほどなく禁止される。無心になって白球を追うことができた時代こそが平和。軍人は自決すればそれ以上失敗の責任を問われないが、それでは彼らに翻弄され命を失った島田、新井たち官僚、そして沖縄戦で犠牲になった民間人は浮かばれまい。非戦闘員の数多の死は文民統制の大切さを訴えていた。

監督     五十嵐匠
出演     萩原聖人/村上淳/吉岡里帆/池間夏海/榎木孝明/成田浬/水橋研二/香川京子
ナンバー     134
オススメ度     ★★*


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