こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ばかもの

otello2011-01-06

ばかもの


ポイント ★★★
監督 金子修介
出演 成宮寛貴/内田有紀/白石美帆/中村ゆり/浅見れいな/岡本奈月/浅田美代子/池内博之/古手川祐子
ナンバー 3
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


生まれて初めて愛した女の思い出は甘美で激しい快楽と強くほろ苦い酒。しかしそれは突然の手酷い裏切りの果てに、深い傷となって男を苦しめる。映画は、年上の女にのめり込んだ挙句フラれた主人公がアルコールに溺れていく過程で仕事や友人・恋人を失い、家族にまで迷惑をかけてもなお彼女を想う姿を追う。人はどれほど年齢と出会いを重ねても変わらぬ思いを持ち続けられる、そんな男女の愚かだけれど一途な生き方は、もののあはれを誘う。


大学生のヒデは30がらみの女・額子と知り合う。酒とセックスを教えられたヒデは彼女の部屋に通い詰めるが、ある日、一方的に別れを告げられる。大学を卒業、就職して新たに彼女もできるが、日常に虚しさを覚えるヒデはアルコールに依存しはじめる。


端から見れば満ち足りた生活を送っているのに、些細なことで苛立ち心の隙間は埋められないヒデはつい酒を口にする。ただ、酩酊しているときだけは額子と過ごしたマシュマロのような日々の記憶に浸っていられるのだろう。カメラはヒデの主観に入り込まず、ひたすらヒデが現実を持て余していく様子を傍観し、彼が抱える額子という苦悩を見事にさらけ出していく。他人に甘え回りも彼を甘やかす、それ程のぬるい人間関係にもかかわらずヒデが救われないのは、ひとえに額子が彼の人生から欠落しているから。ヒデの感情を描かないことで強調する手法が際立っていた。


◆以下 結末に触れています◆


ヒデはなんとか依存症を克服し社会復帰を果たす。その後も自分の弱さに負けそうになるが、偶然額子の消息を知り、彼女に会いに行く。約10年ぶりの再会、額子は左腕を事故で欠損している。彼女の、右腕をごしごし洗い脇毛を剃りたいという願いをヒデが叶える場面は官能を越えた艶めかしさを感じさせ、白くなった髪が彼女もまたヒデを深く求めていたことを鮮やかに物語る。澄み切った川のせせらぎに身を任せるラストシーンはふたりの未来に待ち受ける希望を暗示し、非常にさわやかだった。