こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・マスター 

otello2013-02-26

ザ・マスター THE MASTER

監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニックス/フィリップ・シーモア・ホフマン/エイミー・アダムス/アンビル・チルダーズ/ローラ・ダーン/ ジェシー・プレモンス
ナンバー 45
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人生を見失いあてもなく彷徨する主人公がたどり着いた先は、まやかしだったのか救済だったのか。悶々とする胸中をのぞき見られ過去との決着をつけたと思い込んだ彼が黄金律と感じたものは、時と共にメッキがはがれ無様な本性をさらしていく。信じたい、でも信じられない、物語はアルコール依存症の男がカリスマ指導者と出会い、心酔し、覚醒する過程で人間の真実を見出していく姿を描く。自分のような男でも受け入れてもらえる安心、思考を停止して尽くす喜び、そして必要とされる充足感。その時の感情は本物、だが移ろう時間は人の気持ちも変えいくと映画は訴える。

第二次大戦終結で除隊したフレディは、戦後酒癖の悪さから職を転々とするうち、ある客船に逃げ込む。船主のマスターと呼ばれる男に乗船を許され、トラウマを取り除いてもらったことから彼に従う。

考える間を与えず矢継ぎ早に質問を浴びせて心を開き、瞬きをさせずに目を見つめ、相手が封印した記憶をリプレイさせる。プロセシングという方法でマスターに弱さの原因を解明されたフレディは、彼こそが己を正しく導いてくれる存在と確信する。一方でマスターは妻のペギーに頭が上がらず、批判に対して理論的な反論ができず怒りを爆発させたりもする。マスターは理解者か否か、迷いを吹っ切るために自らセラピーを受けたりもするが完全には帰依しきれない。そんなフレディの精神の往還に“生きる”苦しみが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

フレディの苦悩の根源は将来を誓ったはずのドリスとの失恋なのだが、それは同時にアルコールへの欲求と共に抑えきれない性欲となって彼を追い込む。周りの女がみな裸に見え、機会さえあれば口説こうとするフレディ。いや、刹那的なであってもむしろセックスは彼を慰撫する唯一の手段だ。結局フレディが求めていたのはドリス、もはや彼は他のどんな女と寝ても砂の人型を抱く空しさしか得られない。マスターへの信頼は揺らいでも、ドリスの幻影との葛藤は永遠に続く。決して安寧がもたらされないフレディの魂、その虚無が切なかった。。。

オススメ度 ★★★

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