こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ

f:id:otello:20200307100722j:plain

その魁偉な容貌ゆえにまともな女からは無視される。おごった酒に応じて話し相手になってくれるのは薄汚れた中年女か行き場のない売春婦といった孤独な女ばかり。物語は、夜な夜な場末のバーで女を物色し自宅アパートに連れ帰っては殺人を繰り返していた男の日常を追う。昼間の肉体労働の後は安酒を飲ませる酒場に入り浸っている。軽口をたたく顔なじみはいても込み入ったことは話さない。友人はおらず、屋根裏部屋を訪ねてくるのは陽気な弟だけ。そして、連れ込んだ女たちには一切のやさしさを見せずいきなりベッドに押し倒し、自分がイッたらすぐに追い返す。他人の気持ちを忖度せずコミュニケーション能力も著しく低い、そんな主人公の反社会的なメンタリティと行動は、恐ろしさを感じる以上に滑稽だった。

殺した女の死体から頭部を切断し捨てたフリッツは胴体部分を壁の隙間に隠し何ごともなかったように暮らしている。ある日、バーでナンパした中年女を部屋に通すが、異臭に気づかれる。

部屋の壁一面に貼られたヌード写真は雑誌の切り抜きなのだろう。フリッツは女に30歳になる娘がいると聞くと、いつか彼女を紹介してもらえると信じてあらぬ妄想を抱いている。一方で、酒を飲ませれば女に何をしてもかまわないと思っているのか、ムードを盛り上げたり女を喜ばせたりするような前戯はなくひたすら挿入と射精に励む。交通事故に遭って断酒したのに、新たな職場で出会った人妻の愚痴に付き合ううちにまた酒に手を出すと、今度はロッカールームで彼女にやらせろと懇願し襲い掛かる始末。物事を深く考えずとことん下衆なこの男には嫌悪感しか覚えないが、それがまた欲望を丸出しにした人間臭さにもつながっていて、むしろほのかな笑いさえ誘うのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、とりあえずやらせてくれる女ならば誰でもOKなフリッツは活動をやめない。人殺しに何の躊躇いもない彼の行動原理は良識と激しく乖離しているが、“イケメン格差” の底辺で生きてきた彼の怒りは理解してやらねばなるまい。

監督  ファティ・アキン
出演  ヨナス・ダスラー/マルガレーテ・ティーゼル/カーチャ・シュトゥット/マルク・ホーゼマン/ハーク・ボーム/トリスタン・ゲーベル/グレタ・ゾフィー・シュミット
ナンバー  46
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.bitters.co.jp/yaneura/