こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レッド・バロン

otello2011-04-21

レッド・バロン THE RED BARON

ポイント ★★*
監督 ニコライ・ミュラーション
出演 マティアス・シュヴァイクホファー/レナ・ヘディ/ティル・シュヴァイガー/ジョセフ・ファインズ/フォルカー・ブルッヒ
ナンバー 90
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


“スポーツであって虐殺ではない”と、敵戦闘機に銃弾を浴びせてもパイロットは助けてやろうする主人公。彼にとって戦場とはあくまで己の勇気と技量を量る場で、戦闘は名誉と名誉がぶつかり合う決闘なのだ。敵であっても優秀なパイロットには友情を示し、戦死すれば悼む。冒頭、敵パイロットの葬儀に上空から弔いの花束を落としていくシーンには爽快なダンディズムすら覚えた。戦争がまだ男のロマンをかきたてた時代、映画は、馬を飛行機に乗り換え槍を操縦かんに持ち替えた“20世紀の騎士”たちの最後の輝きを描く。


第一次世界大戦独軍パイロットのリヒトホーフェン撃墜王として連合国側から恐れられた存在で、皇帝から勲章をもらいドイツの軍神と崇められるようになる。一方、捕虜のカナダ人パイロット・ブラウンを献身的に介護した看護婦・ケイトに惹かれていく。


リヒトホーフェンが操る真っ赤な複葉機は敵味方双方から尊敬と畏怖の対象として見られている。敵は彼を撃墜して名を上げようとする。味方は彼と共に闘うことで高揚感を得る。パイロットたちはそんな命がけのゲームがもたらすスリルを楽しんでいるかのよう。そこには悲惨さは微塵もなく、貴族趣味ともいえるほどの優雅さだ。さらに中立地帯に不時着した時には好敵手のブラウンと握手までする。その、交戦域を離れれば同じ大空の夢を追う同志という感覚が当時の貴族・エリートたちのメンタリティなのか、現代では考えられない状況だ。砲弾の雨が降り、血と硝煙の臭いでむせかえる地上の塹壕戦は、彼らパイロットたちとは無縁な戦争なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ケイトに案内されて野戦病院を訪れたリヒトホーフェンは焼けただれた死体や血を流す瀕死の兵士たちの姿を見て、戦争の大義など人殺しの言い訳に過ぎない真実にようやく気づく。自分がアイコンとなって鼓舞した兵士たちが、前線で泥水を啜り、肉体を引きちぎられていく現実。戦争に正義などない、それでも騎士としての使命を全うしようとしたリヒトホーフェンは、きっと悔いなく死んでいったはずだ。。。