こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エクレール・お菓子放浪記

otello2011-05-23

エクレール・お菓子放浪記

ポイント ★★
監督 近藤明男
出演 吉井一肇/林隆三/高橋恵子/遠藤憲一/早織/いしだあゆみ
ナンバー 73
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


甘く切ないメロディに乗せて、澄み切ったボーイソプラノで朗誦する「お菓子と娘」。食糧が不足していた戦中戦後の動乱期、主人公の少年は砂糖をたっぷり使ったお菓子を夢にみて、歌声に希望を託す。その思いは、好きになった年上の女への恋心とシンクロし、少年を真っ直ぐに歩ませる。映画は、感化院に収容された少年が美しい先生との出会いを経て苦難の時代を生き抜く決意を固め、どんな苦労にも耐え抜く姿を描く。真面目で曲がったことが大嫌いだが、楽天的でいつも前向きな少年を吉井一肇が大熱演、いしだあゆみ扮する強欲ババアのがめつさと好対照をなす。


孤児ゆえに感化院に入れられたアキオは指導教官の暴力に脅えつつ、院長の姪・陽子が教えてくれた歌で気分を紛らわせている。その後フサノという老婆に引き取られたアキオは、陽子との文通を楽しみにしながら映画館で働きはじめる。


食料はもちろん芝居を楽しむ自由も制限されている。それでも、庶民は知恵を絞りなんとか日々をしのいでいる。空襲で焼け野原になった東京、敗戦の絶望の中からいち早く気持ちを切り替えて生活を再建させようとするアキオをはじめとする人々の活気は、戦争なんかには負けない日本人の勇気と生命力を感じさせてくれた。そんな中でも、アキオは持ち前のバイタリティで子分を引き連れ大人顔負けの商売上手ぶりを発揮、混乱をチャンスに変える「失うものが何もない者」の強さを見せてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、作品の志の高さは理解できるのだが、物語を構成するエピソードが無理矢理つぎはぎしたようなぎこちなさをたびたび露呈するのには閉口。アキオの感情もブツ切りにされ、映画としては非常に流れが悪くなっている。また、アキオを探してフサノを訪ねた陽子に対し、フサノはアキオの居所を知っていながら陽子に散々無駄足を踏ませたりするなど、全体的にフサノの言動が場当たり的で混乱に拍車をかける。クライマックスの「のど自慢大会」もあまりにもベタな展開で、アキオの美声が唯一の救いとなっていた。