こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハウスメイド

otello2011-08-31

ハウスメイド

ポイント ★★
監督 イム・サンス
出演 チョン・ドヨン/イ・ジョンジェ/ソウ/ユン・ヨジョン
ナンバー 207
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


控え目な笑顔とスカートから伸びたしなやかな脚。女の姿態はたちまち男の心に火をつけ、禁断の関係が幕を開ける。嫉妬、憎悪、殺意、ふたりの秘密は、やがて女たちの肚に悪意を呼び覚まし、怨念の炎となって体を焼きつくす。物語は、大富豪に雇われた家政婦が主人に手を付けられ、妻とその母から仕打ちを受けるあまりにも通俗的な内容ながら、全編思わせぶりにヒロインが抱える闇を際立たせようとする。だが、何のひねりも仕掛けもない展開にイライラは募るばかりで時間は遅々として進まない。


コ家の住み込みメイドとなったウニは、先輩メイドのビョンシクの指導のもと、主人のフン、妊娠中の妻・ヘラ、娘に仕えている。ある日、ヘラとのセックスで満足できなかったフンがウニの寝室に入り込む。


ビョンシクは家事の一切を仕切りウニを教育していく。ウニを監視しているかのような鋭い眼光は、ウニ本人より早くウニの妊娠を見抜き、ヘラの母に告げ口、ヘラの母はウニを流産させてカネでの解決を画策する。この辺りから女同士のドロドロとした感情がぶつかり合うのかと思いきや、鈍感なのかバカなのか、ウニは飄々としていてつかみどころがない。それどころか最後まで、冒頭の飛び降り自殺する女や質素な墓で眠るウニの母もテーマに絡んでくることもなく、ミステリーの装いを纏っていても伏線が機能していない間抜けな作品になってしまった。ただ、場末の街で働いていたウニとコ一家が住む豪邸の対比で、格差社会の現実だけは鮮やかに描けていたが。


◆以下 結末に触れています◆


もしかしてこれは、ビョンシクの復讐譚だったのだろうか。ウニを面接・採用したのは彼女だし、検事になった息子を使えばウニの身上調査も容易だったはず。身内がおらず美貌のウニをコ家に送りこめば幸せな家庭を壊すことができるかもしれないし、ウニが殺されても誰も悲しまない。「人間扱いされなかった」というウニの言葉は、そのまま数十年にわたってビョンシクの胸に滾っていた思いだったのだ。