こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あしたのパスタはアルデンテ

otello2011-09-01

あしたのパスタはアルデンテ MINE VAGANTI


ポイント ★★*
監督 フェルザン・オズペテク
出演 リッカルド・スカマルチョ/ニコール・グリマウド/アレッサンドロ・プレツィオージ/エンニオ・ファンタスティキーニ/ルネッタ・サヴィーノ/イラリア・オッキーニ
ナンバー 209
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


心の命ずるままに生きようとすれば、時に孤独な戦いになる。まだ将来を決めかねている若者が親が敷いたレールと自分の夢の間で迷う過程は星の数ほど描かれてきたテーマだが、物語は同性愛への偏見を絡めて今日性を持たせる。都市部では珍しくなくなった同性愛者も、田舎町ではまだまだ好奇の的、息子にゲイであると知らされた父親は心臓発作まで起こしてしまう。信じられない、信じたくないと狼狽する父親の姿は、身内に同性愛者がいると知った者のリアルな反応なのだろう。


パスタ工場を営む実家に帰ったトンマーゾは、跡継ぎの兄・アントニオが家族の前で「ゲイ宣言」して父親から追い出されたとばっちりで、社業を継ぐ羽目になる。共同経営者の娘・アルバと共に会社経営を学んでいくが、胸の中では小説家になりたいという願望がくすぶり続けている。


トンマーゾも実はゲイで、アントニオが先にカミングアウトしたため言い出せなくなっている。いつ告白しようか機をうかがっているうちに時間が過ぎ、いつしか経営者になるのが既定路線となっている。そんなトンマーゾの葛藤を祖母だけは見抜いている。映画は、愛、反発、期待、重圧、無理解といった、肉親だからこそ複雑に絡み合い簡単には解決しない感情のもつれやしこりを丁寧に掬い取っていく。


◆以下 結末に触れています◆


トンマーゾの祖母はかつて恋人をあきらめ別の男と結婚した過去があり、愛を貫かなかったのを後悔している事実を認めたくなくて“永遠の恋”と記憶を美化している。おばのルチアーナは、若いころにロンドンに駆け落ちした末に男に捨てられて家に戻ってきた経験がある。思いを貫かずに後悔した祖母、失敗しても行動に移したおば。「大切なのは“あのときやっておけばよかった”と後悔しないこと」と祖母はトンマーゾにメッセージを遺す。各人が皆パートナーを見つけてダンスに興じる中、トンマーゾがひとり未来を見据えているラストシーン、彼はきっと己が進むべき道を見つけたにちがいない。