こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミラノ、愛に生きる

otello2012-01-06

ミラノ、愛に生きる IO SONO L'AMORE

ポイント ★★*
監督 ルカ・グァダニーノ
出演 ティルダ・スウィントン/フラヴィオ・パレンティ/エドアルド・ガブリエリーニ/アルバ・ロルヴァケル/ピッポ・デルボーノ/マリア・パイアート
ナンバー 2
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一族を集めての贅を尽くした晩餐会、石造りの豪邸とハイセンスな家具調度、大勢の使用人たち。21世紀に受け継がれた貴族趣味の数々はヴィスコンティの世界に迷い込んだよう。その感覚に、一族が経営する企業が買収され、家名だけが残る「貴族階級の没落」と「家族の崩壊」といったテーマが拍車をかける。物語はミラノの有名ブランドオーナー一家の濃密な関係を通じて、責任ある立場の人間の苦悩と、思いのままに生きるには犠牲を伴うことを描く。フィルムの質感やストーリー展開のテンポ、BGMの使い方に至るまで、70年代のイタリア映画を見ている気分になる。

レッキ家の当主が誕生パーティの席で引退を宣言、息子のタンクレディと孫のエドに家督を譲る。タンクレディの妻・エンマはその夜、エドの友人でシェフのアントニオと知り合い、後日アントニオの料理を口にしたエンマは今までに経験のない衝撃と官能を覚える。

小エビを味わったりアントニオを尾行したり、エンマの心の動きをいちいち大仰な音楽で過剰に装飾するかと思えば、ふたりが体を重ねるシーンではエンマの肌と野に咲く花を交互に繰り返し挿入してセックスを連想させるなど、もはや誰も使わない古い手法を用いる。それは抑圧してきたエンマの感情や欲望を解放させると同時に、失われた過去を取り戻そうとしているかのようだ。ロシア人のエンマは、子供たちの年齢から推測するに、ソ連時代にイタリアに渡ったのだろう。いくらタンクレディに愛されていたとはいえ、見知らぬ土地で己を殺して半生を過ごした苦労は想像に余りある。ティルダ・スウィントンはそんな彼女の人生を鋭い視線で饒舌に語ってみせる。

◆以下 結末に触れています◆

エンマがアントニオに惹かれる気持ちは理解できるが、アントニオはエンマを本当に愛したのか。確かにエンマは美しい、しかし、友人の母親つまり自分の母親と同じ世代のかなり年上の女でもう赤ちゃんは産めないはず。レッキ家を出たからには金銭的な援助も望めない。それでもアントニオがエンマを受け入れたのは、欧州の価値観では成熟した女ほど魅力的だからなのだ。

↓公式サイト↓