こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プリピャチ

otello2012-02-25

プリピャチ

オススメ度 ★★*
監督 ニコラウス・ゲイハルタ
出演 オリガ・グリゴリエヴナ・ルドチェンコ/アンドレイ・アントノヴィチ・ルドチェンコ/ニコライ・ニコラエヴィチ・スヴォーロフ/ジナイーダ・イワノヴナ・クラスノジョン
ナンバー 44
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

空は高く澄みきっているのだろう、大地の緑は濃く瑞々しいのだろう。だが、屋根もなく朽ち果てた家屋、廃墟同然のスタジアム、雑草が伸び放題の道路など、人の手が入らなくなった風景を収めたモノクロ映像が、死の町であることを強烈に印象付ける。カメラは本来人間には危険な環境にもかかわらず、そこを故郷を終の棲家と定めた夫婦、そこでしか職を得られない人々、逃げたくても逃げられない住人の現実を追う。目には見えず臭いもない、すぐには異常を感じない、でも少しずつではあるが確実に健康は蝕ばまれている。映画は、人体への悪影響を声高に告発するわけではないが、その裏にある放射能の恐怖を描く。

チェルノブイリ原発事故から12年後、原発から30キロ圏内はゾーンと呼ばれて人やモノの出入りが厳しく制限されている。一方、ゾーン内での生活を選んだ人々はいつもの日常を送り、いまだ発電を続ける原発内に仕事を持つ人々も過去を気にせずに職務に励んでいる。

メルトダウンを起こした4号機こそ封鎖されているが、すぐ隣の3号機はフル稼働中、制御室から原子炉の心臓部にまでレンズにとらえられ、作業員にマイクが向けられる。あれほどの事故の後も職場に戻った安全責任者は、今は「絶対に安全」と自信を持って断言する。彼の言葉はプロとしてのプライドなのか、自分を納得させるための方便なのかはわからない。ひとつだけ言えるのは、彼らは常に命がけで勤務している事実だ。


◆以下 結末に触れています◆

女性医師は情報が圧倒的に少ないとこぼす。おそらく、情報を握っている役人たちもあまりにも大きすぎる規模の災害ゆえに、何を公表してよいのかわからないのだ。下手に開示すると誰かのクビが飛ぶかもしれない、ならば公表しないでおこうという保身と無責任。それが現在のフクシマめぐる理論と驚くほど共通しているのには驚いた。全体的に長まわしのシーンの連続はやや中だるみして集中力を殺がれるが、それでも汚染されていると知りつつゾーンにしがみつく人々の心境を慮るに、住み慣れた土地で暮らしたいという願いは“人権”であると、改めて思う。

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