こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カルロス CARLOS 第一部

otello2012-07-26

カルロス CARLOS 第一部

オススメ度 ★★★
監督 オリヴィエ・アサイヤス
出演 エドガー・ラミレス/アレクサンダー・シェアー/アフマド・カーブル/ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン/ジュリア・フンマー/クリストフ・バッハ/タラル・エル・ジョルディ
ナンバー 160
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

個人宅に訪ねてきた見知らぬ他人にドアを開け、大使館ですら自由に出入りできる。セキュリティ意識がほとんどなかった’70年代、人々の警戒心の薄さが印象的だ。人と人は直接会って用件を伝え、顔を突き合わせて意見を闘わせる。それらのシーンに、良くも悪くもアナログのニオイが強烈にスクリーンから漂ってくる。物語は、後に伝説の殺し屋となる男がいかにして生まれたかに焦点を当て、革命という名のテロが欧州に蔓延していた時代を描く。ソ連社会主義ではなくマルクスの原点に立ち戻り、資本主義を倒して人民を解放する理想、それらがまだ現実可能な夢であるかのごとく語られていたころの空気がリアルで、まるで世界を揺るがす事件の真っただ中に飛びこんだような緊迫感を覚える。

PFLPパレスチナ人民解放戦線)のリーダー・ハダトの指令でロンドンの実業家暗殺に向かったイリッチは、PFLPパリ支部のメンバーに認められる。その後、ハーグの仏大使館を占拠した日本赤軍支援のため、パリで爆弾テロを起こす。

引き金を引くのも爆弾を投げ込むのもためらわないイリッチはたちまち頭角を現し、西ドイツの組織とも共闘する。しかし、ドイツ人が純粋に打倒帝国主義新左翼思想による革命を目指しているのに、イリッチはどこか安っぽいヒロイズムを求めている。そして武器を手にすることで無抵抗の人々をひれ伏せさせる万能感に酔いしれる。さらには“兵士”には絶対服従を求めるハダトに反抗的な態度をとるなど、腕が立ち度胸はあるが組織の一員としては甚だ不適格な一面を何度もかいま見せる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、カルロスと名乗り始めたイリッチは、裏切った直属の上司を刑事もろとも射殺しハダトの元に逃げ帰り、新たな作戦のための訓練をうける。映画は欧州各地から中東までめまぐるしく舞台を変え、カルロスが残した足跡を追う。その過程で人々のファッション、文化、科学技術、街並みなどあらゆる点においてディテールまで当時を再現する。この作品の撮影にかかった膨大な費用と労力に敬服する。

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