こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

もうひとりのシェイクスピア 

otello2012-11-20

もうひとりのシェイクスピア ANONYMOUS

監督 ローランド・エメリッヒ
出演 リス・エヴァンス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ジョエリー・リチャードソン/デヴィッド・シューリス/ゼイヴィア・サミュエル/セバスチャン・アルメストロ
ナンバー 283
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

シェイクスピアの悲劇よりもおぞましく、シェイクスピアの喜劇よりも滑稽。映画は“シェイクスピア身代り説”をもとに、実際に原稿を執筆したとされる男の波乱に富んだ人生を描く。それはまさに、彼の戯曲以上の秘密と嘘、裏切りと謀略、そして愛と哀しみに満ちている。エリザベス女王統治時代の末期、宮廷内でうごめく後継者争い、芝居を通じて民衆の心をつかもうとする貴族と敵対勢力の駆け引き、何よりシェイクスピア本人が陳腐な役者に過ぎず、まともに文字すら書けない設定が興味深い。

女王の側近・セシル父子による演劇弾圧を目の当たりにしたイングランド有数の貴族・エドワードは、自作の戯曲を劇作家のジョンソンに託し匿名で上演させる。芝居は喝采で民衆に迎えられるが、舞台役者のウィルが“自分が作者”と名乗り出る。

以後、エドワードの戯曲はすべてウィルの作品として上演され、人気を博していく。一方、衰えが見える女王の周辺で世継ぎ選びが火種としてくすぶり始め、女王の隠し子を擁立するエドワードはスコットランド王を推すセシルと対立する。英国史上最も名高い統治者であるエリザベスが複数の隠し子をもうけていたという驚くべき発想。さらに赤ちゃんはすぐに養子に出され女王に消息が伝わらず、彼女が知らぬうちに子供たちが宮廷に出入りしている大胆な伏線。それらはかつて女王の愛人として彼女を妊娠させたのち追放された過去を持つエドワードに、追い打ちをかけるようにして耳打ちされた忌まわしい真実となって結実し、彼を絶望の淵に突き落とす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高等教育を受けず外国にも出た記録がないシェイクスピアにあれほどまでに人間の業を掘り下げられるはずがない。数多の傑作は、青春や恋愛の喜びだけでなく、権力欲と嫉妬と近親相姦と破滅を体験したエドワードならではの世界観から生まれたもの。16世紀後半のロンドンの街並みと王室内部を細密に再現した映像がその仮説に圧倒的なリアリティを与えていた。

オススメ度 ★★★

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