こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

野のなななのか

otello2014-05-26

野のなななのか

監督 大林宣彦
出演 品川徹/常盤貴子/村田雄浩/松重豊/柴山智加/山崎紘菜/窪塚俊介/寺島咲/安達祐実
ナンバー 119
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

あの大震災が起きた同じ日・同じ時刻にひっそりと息を引き取った一人の老人。輝かしい将来を約束されながら戦争に運命を狂わされ、戦後も深い喪失感に苛まれつつ長い年月を過ごしてきた。唯一同居している孫娘が、その思いを受け継いでくれたのが救い。そして葬儀、初七日、四十九日と彼の思い出を振り返る過程で、遺族は彼の真実を知る。秘められた恋、叶わなかった愛、走馬灯のようによみがえる彼の記憶が様々な表現テクニックを駆使したファンタジックな映像詩として再現される。そこには“終戦の日”以降も続いた戦闘に未来を奪われた若者たちの苦痛と悲しみが凝縮されていた。人生など所詮は邯鄲の夢、それでもその一つ一つにはかけがえのない命が宿っているのだ。

92歳で大往生を遂げた光男の通夜に親族が次々と集まる。妹、孫4人、ひ孫ひとり、久しぶりに顔を合わせた彼らは光男の生涯を顧みつつ旧交を温める。かつて光男と暮らしていた謎の女・信子も現れ、幼少時彼女の世話になっていたカンナと秋人は不思議な感覚に襲われる。

素人楽団が奏でる哀切のこもったスローなメロディ、短いカットを積み重ねテンポを速めた会話、故人が集めた骨董品の数々。まるでこの世とあの世の境界をさまよっているかのような浮遊感漂う演出は、いまだ死という現実を受け入れられない光男の魂が見ている光景なのだろう。生きている者たちを見つめる優しい視線が、光男の生への執着が徐々に薄れていくことを物語る。さらに彼の口から語られた美少女との出会いとソ連軍の侵略。理不尽に殺される無念と虚しさ、人の死に対する無感情と残された者の苦悩が中原中也の詩に象徴される。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて明らかになる信子の正体と使命。光男にとってそれは失われた青春であり、忘れてしまいたいが忘れてはいけない過去。彼女の存在が映画をよりミステリアスに装飾し、光男の心に刻まれた傷を浮き彫りにしていた。ただ、何度も挿入される2時46分で止まった時計に強引に3.11と関連付けるあざとさが悪目立ちし、見苦しいのが残念だった。

オススメ度 ★★

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