こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

泣く男

otello2014-08-13

泣く男

監督 イ・ジョンボム
出演 チャン・ドンゴン/キム・ミニ/ブライアン・ティー/キム・ヒウォン/キム・ジュンソン
ナンバー 187
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

マンションの室内で襲い掛かる数人のチンピラと戦う男は、相手の体を盾にして銃弾をかわし、腕をからめて関節をひねり、ナイフで脚の腱を切る。手足を大きく使えない狭い空間でみせる洗練された格闘術は、型にはまらない必殺のテクニック。加えて廊下を走り階段を跳びながら狙撃手と繰り広げる銃撃戦は、ダイナミックかつスリリング。傷口や息遣いまでとらえた映像は圧倒的なリアリティで主人公のサバイバル本能を再現する。物語は少女を誤射した殺し屋が、悔恨の情に苛まれながらもその子の母親の暗殺に赴く姿を描く。冷酷非情な殺人マシーンだった彼が、わが子の非業の死に直面した母の気持ちに寄り添ううちに、少しずつ人間的な思いを取り戻して行く展開は、過酷な運命を背負った男の孤独と哀しみに満ちていた。

組織の裏切り者と取引先を皆殺しにしたゴンは、現場に迷い込んだ少女も射殺する。ところが、秘密ファイルがその少女の母・モギョンに渡り、ゴンはモギョン抹殺とファイルの回収を命じられソウルに向かう。

ゴンは早速監視を始めるが、そこでモギョンの母親としての愛と絶望を知る。そして、かつて自分を忘れて自殺したと思っていたゴンの母が、実は彼女がゴンに捨てられたと誤解し、絶望から引き金を引いていたことに思い当たる。子を失った母の悲嘆、モギョンの痛みは死の直前に母が味わった苦悩と同じだったと理解したゴンは、モギョンを守る決意する。そのあたり、子を亡くした母と母を亡くした男に共通する胸の空白が切ないトーンで表現され、ゴンの抱える闇が徐々に溶け出していく過程すら殺し合いで血塗られ、強烈な死の臭いを放つ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてモギョンの元に組織は凄腕の傭兵を送り込むが、ゴンは単身彼らを迎え撃つ。さらにハイテクビルを舞台に中国人ヒットマンとの宿命の対決。暗渠のような己の心にも愛の断片が残っていた、愛された記憶が眠っていた。それに気づいてももはやゴンはモギョン母娘に贖うすべはない。感情を抑制し、ただ生き延びるために人を殺してきた、そんな男の人生をチャン・ドンゴンが寡黙な背中で語っていた。

オススメ度 ★★★*

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