こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸せのありか

otello2014-09-18

幸せのありか Chce sie zyc

監督 マチェイ・ピェプシツァ
出演 ダビド・オドロドニク/カミル・トカチ/アルカディウシュ・ヤクビク/ドロタ・コラク/カタジナ・ザバツカ
ナンバー 209
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

背骨は歪み、指はいびつに曲がり、首は座らない。ひとりで立ったり歩いたりもできない。言葉は話せず、唯一のコミュニケーションは刺激に対する反応と本能的な欲求のみ。医師からは“植物状態”と宣言され知的障碍者とみなされている。それでも母は深い愛情を注ぎ、父も人生の素晴らしさを語ってくれる。物語は脳性マヒの主人公が、心の中で様々な思考を巡らせ懸命に生きようとする姿を描く。目は見えている、耳も聞こえている、記憶も知能も健常者と変わらない。しかし、思いを伝える術がない。そのもどかしさの中で独白を繰り返す彼の、決して絶望しない強さは、毅然として美しい。

身体の自由が利かないマテウシュは、狭いアパートと窓から見える風景、散歩する近所が世界のすべて。車いすを作ったり星のきらめきを見せてくれた父が突然いなくなり、母が介護で倒れると知的障害者向けの施設に収容される。

仰向けで体をくねらせながら移動し、うまく動かせない手でつかもうとする。時に顔の筋肉を不随意に痙攣させ不自然な角度に頭をよじる。鍛えられた腹筋が一瞬映るシーンがなければ、マテウシュを演じたダヴィト・オクロドニクは本当に障害があると信じてしまうほど。彼の演技を超越した肉体改造が息詰まるほどのリアリティをこの映画にもたらし、センチメンタルな共感を排除する。家族の愛を前面に出しても押し付けがましさはなく、むしろマテウシュの巨乳好きや美人ボランティアとの交流といった楽しい時間が、どんな境遇に産まれても喜びは得られると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて意志の伝達手段を覚えたマテウシュは、面接官の前で感情を露わにする。複雑なでんぐり返しの末、自らの足で立ちあがる。それだけでも大変な苦行なのに、彼を理解しようとしなかった大人たちに怒りをぶつけようとするのだ。たった一歩、だがそれは彼が初めて社会に要求を突き付けた瞬間でもある。自分らしく生きたい、そんなマテウシュの声にならない叫びが、いつまでも胸にこだまする作品だった。

オススメ度 ★★★★

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