こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ロマンス

otello2015-09-03

ロマンス

監督 タナダユキ
出演 大島優子/大倉孝二/野嵜好美/窪田正孝/西牟田
ナンバー 206
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ケチな泥棒のくせに妙に図々しく踏み込んでくるオッサン。いくら迷惑がってもどこか憎めない人間味があり、いつしか彼のペースにはまってしまう。そして見抜かれてしまった母への思い。ずっと嫌っていた、もう二度と会いたくないはずだった。だが、古い記憶を拾い集めるうちに楽しかった思い出うれしかった気持ちが脳裏によみがえってくる。物語は初対面の男に強引に連れまわされながら、自殺をほのめかす母親を探す販売員の一日を追う。小田原城から登山鉄道、温泉卵やそば、芦ノ湖といった箱根の名所を巡る過程で徐々にヒロインの表情から険が取れていく。その変化が、他者とのかかわりが人生を豊かにすると教えてくれる。やっぱり観光地は、少し季節外れの平日、人出の少ない時期に訪れるのがいい。

小田急ロマンスカーの移動販売員・鉢子は万引き犯・桜庭を捕まえるが、ゴミ箱に捨てた母からの手紙を桜庭に読まれ、逆に桜庭から母の安否を気遣われる。ふたりは鉢子の母を見つけるためレンタカーを借りる。

急展開の成り行きに鉢子は怒り、憤り、激しく桜庭を罵る。それでも、カネもケータイも持たぬまま職場を離れ、母の身を案じている。予定外・予想外の出来事、にもかかわらず鉢子が桜庭と行動を共にするのは、退屈な毎日に刺激が欲しかったから。レールの上を行って帰るだけの日々から離れた鉢子にとって、桜庭との時間は自分自身と失った家族の関係を顧みる旅となる。彼女がいちばん恐れているのは母の男運の悪さが遺伝していること。強がっていても優しくされるとつい心を許してしまう、そんな寂しい女を大島優子がナチュラルに演じている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

道に迷ったふたりはラブホに入るが、桜庭もまた行き詰まり現実から逃げていると告白する。見知らぬ他人と非日常にいる、だからこそ胸にたまった澱を相手にすべて吐き出してもあとくされがない。「私を待っている人がいる」と考えるだけで、人間は不思議と生きる勇気が湧いてくる。そう思わせる作品だった。

オススメ度 ★★★

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