嘆きのピエタ
監督 キム・ギドク
出演 チョ・ミンス/イ・ジョンジン
ナンバー 75
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
親に見捨てられたゆえ情けや優しさとは無縁に暮らしてきた借金取りは、表情一つ変えずに相手の手をつぶし足をへし折る。縋り付いて懇願しても悪魔と罵っても、喜怒哀楽のない彼は凄惨な制裁を止めない。物語は暴力しか知らない男が、初めて深い愛情に包まれて生まれ変わっていく姿を描く。それは孤独と絶望が支配する刹那的な世界で見つけた唯一の希望。だがキム・ギドク監督はそんな主人公に簡単には安らぎを与えたりはしない。カネと愛と復讐、謎めいた関係と狂気を孕んだ映像は息詰まるテンションで見る者を挑発する。
債務者を身体障碍者にして保険金で返済させる冷酷な回収人・ガンドの前に、“母”と名乗る女・ミソンが現れる。彼女は30年間の音信不通を償うようにかいがいしくガンドの世話をし、いつしかガンドにも他人を思いやる心が芽生えていく。
子供のために手を切断してくれと頼む男から子に対する親の気持ちを教えられ、ミソンの思惑が読めず困惑していたガンドも彼女が母だと信じ始める。手をつないで街を歩くふたりはまるで恋人同士のよう、無条件にガンドを受け入れ慈しむミソンに、ガンドは“もう、ひとりでは生きていけない”と未来への不安を口にする。愛し愛される幸福とそれを失う恐怖、ガンドはこれまで傷つけてきた人々にも家族がいて、そこには同じ思いがあったことを身を以て体験する。荒涼とした町工場街の風景の中、怒りや憎しみですら彼が人間らしい感情を取り戻している証拠としてむしろ好ましく思えるほどだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて、消息を絶ったミソンを狂おしい激情に駆られ探し回るガンドは、地獄に突き落としたはずの債務者たちにも助け合う家族がいるのに、自分は母ひとり守れないほど無力だったと思い知る。そしてたどり着いたミソンの真実。後悔と贖罪、もはや己に生きる価値などない。ガンドが自らに与えた罰は、その苦痛が激しいほど救済になる。道路に残されたどこまでも続く赤いラインは、ガンドの魂は確かに救われたことを暗示していた。。。
オススメ度 ★★★★