こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

SHADOW 影武者

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人の肌と血、小さな炎と乾いた竹。それ以外のすべての対象物から色彩を取り除いた映像は、あらゆるショットが水墨画のよう。墨汁の繊細な濃淡で自然と人間の営みを再現し、枯山水のごとき趣まで取り入れ、東洋的なアートの世界に浸っている気分になる。物語は戦乱の時代、領土的野心を持つ小国の重臣が影武者を使って他国に戦争を仕掛け、国内では政治を牛耳ろうとする姿を描く。降りしきる雨、雨、雨。水滴の一粒一粒は人間の卑小さを表し、雨滴が集まり形を持たない水となる様子は、大局の流れに人は逆らえないというメタファーなのか。陰謀と罠、愛と怒り、裏切りと嘘。名もなき影武者が権力の中枢を駆けあがっていく過程は、彼にとっては自分探しでもある。その背中は、殺めた命の数だけ背負うものも大きくなる哀しみに満ちていた。

炎国に割譲された土地の奪還を目論む都督は独断で炎国の将軍・楊蒼に決闘を申し込むが和平派の王と対立、職を解かれる。実は、出仕していた都督は、深手を負った都督本人の影武者だった。

楊蒼が操る偃月刀に対抗するために考案された刃で作った傘を始め、竹筒の空気タンク、手首に装着する小型の弩など日本の時代劇では見られない新兵器が続々と紹介される。特に刃傘は、敵の打撃を受け流しつつ攻撃に転じる流麗かつ強力なディフェンスにもオフェンスにも使えるスグレモノ。その徹底的に様式美にこだわった動きとかき鳴らされる琴の音色は優雅な舞を見ているようだ。さらに刃傘を逆さに広げて回転橇状にして敵陣深く突撃するシーンは、そのユニークな発想に思わず膝を打った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

都督に代って楊蒼との一騎打ちに向かった影は、同時に都督が密かに組織した特殊部隊の陽動となり、奇襲を成功させる。加えて、忍者部隊や仮面の暗殺者など、銃器等の近代装備普及以前の戦士が次々とスタイリッシュに現れては目を楽しませてくれる。ただ、骨格となるストーリーも登場人物のディテールも、視覚的な目新しさを十分に生かし切れていないのが残念だった。

監督  チャン・イーモウ
出演  ダン・チャオ/スン・リー/チェン・カイ/ワン・チエンユエン/ワン・ジンチュン
ナンバー  214
オススメ度  ★★*


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