こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

帰れない二人

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腕っぷしは強かった。肚も据わっていた。その男気に惚れて沈黙を守ったのに、再会した時はすっかり別人になっていた。物語は、地方都市の裏社会で生きる男と女の愛の遍歴を追う。賭場でのケンカ仲裁、開発に伴う汚れ仕事、半グレ集団との抗争etc. 警察に介入されたくないもめごとを解決する能力にたけた男は、住民から一目かれていた。町一番の美女もそんな男に連れ添うだけでなく、並み居る男たち以上の気性を見せる。ヤクザなのはわかっている、だがむしろ筋を通す彼の生き方は誇らしい。だからこそ刑務所暮らしに耐えたのに、ずっと信じて待ったのに、突きつけられた厳しい現実。それでも見捨てることはできなかった。愛や恋ではない、度量の広さが人間を測る物差しだとこの作品は訴える。

若くして頭角を現した渡世人・ビンと恋人のチャオは刺激的な日々を送っていた。ある日、ビンとチャオが乗ったクルマが襲撃され、袋叩きにされたビンを助けるためにチャオは発砲する。

誰も傷つけなかったが拳銃の出所を明かさなかったチャオは懲役刑を受け、数年間服役する。その間ビンは一度も面会に来ない。出所後長江流域に移ったと聞いたビンを追って、チャオは長い船旅に出る。旧知の兄妹を訪ね消息を訊くが、ビンはその妹とデキていて会ってくれない。自分で確かめないと納得できないと食い下がるチャオ。裏切られ捨てられた怒りや悲しみを呑み込むながらも、強固な意志をみなぎらせているチャオの瞳が印象的だった。葬儀で社交ダンスを踊ったり、檻の中のトラとライオンの前で大道芸人が演技したり、大勢の人々が広州行きの移住船に乗船したり、汽車で数日過ごすなど、中国人の発想の面白さやおおらかさ、大陸の広さが実感できる映像は、登場人物の感情を押し付けてこない分心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして現代。新幹線に乗って帰郷したビンは車いす生活者になっている。連絡を受けたチャオは彼の身柄を引き受ける。もはや叶わぬ願いと知りながらビンに寄り添うチャオ。彼女の気持ちが果てしなく切なかった。

監督  ジャ・ジャンクー
出演  チャオ・タオ/リャオ・ファン/シュー・ジェン/キャスパー・リャン
ナンバー  215
オススメ度  ★★★


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