こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベル・カント とらわれのアリア 

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勤勉に任務に励む少年、懸命に言葉を学ぼうとする少女、歌い方を教えてくれと懇願する若者、知的な雰囲気の司令官etc. 銃を振りかざしていたテロリストなのに、話してみればみな根は善良な人々だった。物語は、南米某国の官邸を乗っ取った地元武装ゲリラと人質の交流を描く。ゲリラのほとんどは公用語もままならない先住民系、まともな教育を受けていないが意識は高い。人質は日米欧のセレブ達。交わるはずのなかった2つの階層は膠着状態の中でお互いを認め合い、やがて心を通わせていく。貧困ゆえに武装闘争を選んだ下級国民と彼らを搾取してきた上級国民。本来ならば階級闘争の場であるのに、いつの間にか人と人の共感が生まれている。憎むべき敵でも理解し思いやれば争いは収まるのではないかとこの作品は問いかける。

オペラ歌手・ロクサーヌのミニコンサート中にゲリラが乱入、各界の要人たちが人質となる。解放交渉が滞ると当局は水の供給を断ち、ゲリラの司令官はロクサーヌにバルコニーで歌えと要請する。

公邸を封鎖した当局は、ロクサーヌのアリアをきっかけに水道を復旧させる。英語は通じない。スペイン語さえ覚束ない者もいる。そんな中、イタリア語で響く彼女の歌声は聴くものすべての胸を打ち、しばし非常事態であることを忘れさせる。セレブ達以外、おそらく歌詞の意味は知らない。それでも、それが愛と安寧を願う歌だとゲリラも包囲網も直感的にわかってしまうのだ。耳にした当事者たちの表情から一斉に険が取れていく様子は、百年人口に膾炙してきた名曲が持つ圧倒的な歌の力を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、交渉に進展はなく、暇を持て余したゲリラと人質は密にコミュニケーションをとるようになる。さらに友情や愛情まで芽生える。そして特殊部隊の突入。投降したゲリラにまで容赦なく銃弾を浴びせる特殊部隊に対し、ゲリラを守ろうとする人質までいる。ストックホルム症候群を超える感情の絆、事件の背景を考えるとき、ゲリラ側にも正義があったと思わせる作品だった。

監督  ポール・ワイツ
出演  ジュリアン・ムーア/渡辺謙/セバスチャン・コッホ/クリストファー・ランバート/加瀬亮/エルザ・ジルベルスタイン
ナンバー  216
オススメ度  ★★★*


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