こんなに嫌われていたのか。こんなに人を傷つけていたのか。こんなにずるがしこかったのか。失った過去をたどるうちに自分の評判を耳にした男は、もう一度やり直す決意をする。物語は、頭に投石を受け記憶障害に陥った総理大臣が、己が汚した政治の世界を自らの手で浄化していく姿を描く。野党はもとより、与党内の政敵、妻にもマスコミにも絶対に漏れてはならない。秘密を知るのは3人の秘書官だけ、彼らの懸命のフォローで次々と難局を切り抜けていく。政治家の汚職、与野党間の癒着、マスコミの恫喝、家族のトラブル。少しずつ現実に触れるうちに彼はこのままではいけないと気づいていく。別人格になったかのように政策を転換させていく過程は、あるべき政治家像を追っているようだ。そこに、笑いに加えて毒も含ませてほしかった。
病院で目覚めた黒田はアイデンティティを喪失したまま街に出るが、秘書の井坂に無事保護される。混乱を恐れた井坂は、なんとか黒田を操って当面の問題をごまかそうとする。
首相官邸から国会の裏事情、閣議における官房長官の専横、不倫中の妻や飲酒で補導された息子など、日本の最高権力者といえども気を遣う相手に囲まれている。ところが横暴で欲得ずくだったころを忘れている黒田は、これを機に理想の政治家を目指そうとする。旧弊を改めしがらみを絶つ黒田に共感する者が、改革に反感を持つ者を排除していくプロセスはコミカルかつすがすがしい。彼の背中は、言葉に行動が伴ってこそ信頼されると訴える。それにしてもみなガラケーを使っているのはなぜだろう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
最大の懸案である米国大統領との交渉も無事成功し、あとは敵対する幹事長を追い出すのみ。黒い交際以上のスキャンダルには思わず腹を抱えた。ただ、そもそもこれほどの一大事を秘書だけで対処できるかか疑問。井坂が黒田を操って国政を牛耳ろうと企む設定なら理解できるが、まずは官房長官ら閣僚に報告するはずだ。架空の国の話であれば納得したのだが。警視庁の警官が稚内に飛ばされるのも不自然だ。
監督 三谷幸喜
出演 中井貴一/ディーン・フジオカ/石田ゆり子/草刈正雄/佐藤浩市/小池栄子/斉藤由貴/木村佳乃/吉田羊
ナンバー 218
オススメ度 ★★*
↓公式サイト↓
https://kiokunashi-movie.jp/