こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

今さら言えない小さな秘密

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自転車はハンドルを握って横を歩くもの。サドルにまたがってペダルを漕ぐのは乾坤一擲の大勝負の時だけ。物語は、子供のころから自転車に乗れないという秘密を抱えてきたまま、村一番の自転車修理工になってしまった男の苦悩を描く。父を落胆させたくなかった。恥ずかしくて誰にも言えなかった。でもありったけの勇気を振り絞ったら奇跡が起きた。そのせいでますます彼は真実を口に出せなくなる。そして、クラスメイトから受ける羨望と尊敬のまなざしと、村人の期待を裏切るまいと “伝説” を演じ始める。やがて誰も彼が自転車を苦手にしているなんて信じなくなり、事情を知った人には禍が降りかかる。そんな主人公の、嘘をつきとおさなければならない居心地の悪さがユーモアたっぷりに再現されていた。

父のもとで自転車乗りの練習に励むラウルは、バランス感覚に乏しくなかなか乗りこなせない。ある日、小学校のツーリング教室に参加したラウルは、自転車で坂道を下って見事な空中大回転を披露する。

一躍ヒーローになってしまったラウルは、あえて大技の練習に疲れた様子を装い人前では自転車に乗らないようになる。彼を疑う者はいない。そうやってなんとか大人になるまでごまかしてきたが、やはり良心の呵責に耐えきれない。だが、打ち明けた父が口止めされ恋人にも警告が発せられる。もはや神の意思なのかと思わせる彼の運命。テクノロジー普及以前ののどかな田園風景と村人の素朴な日常が心地よく、目に見えない摂理と人間の距離がすごく近くに思える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

村にやってきた写真家・エルヴェと親しくなったラウルは、彼にモデルを頼まれる。頑なに断るが妻の強力な勧めもあって渋々引き受ける。このあたりも、周囲を欺き続けてきた己を呪いつつなんとか切り抜けようとするラウルの心理がリアルで、その弱さに思わず共感した。本当はできるのに不可能とあきらめている。自分を縛り付けているのは自分自身の思い込み。自信を持って踏み出せばきっと道は開けるとこの作品は教えてくれる。

監督  ピエール・ゴドー
出演  ブノワ・ポールヴールド/スザンヌ・クレマン/エドワール・バエル
ナンバー  222
オススメ度  ★★★*


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