こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハニーランド 永遠の谷

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無人の荒野を歩き岩山を登り、切り立った崖の中ほどにある岩の隙間にできた蜂の巣から蜜を取る。人工的ではない、栄養がたっぷりと詰まった蜂蜜。映画は、森や山に蜜蜂が自発的に作った巣から蜜を採取・販売する女の日常に密着、資本主義によって侵食されていく大地を象徴的にとらえる。トレーラーに乗ってやってきたのは異国人の大家族、牛を放牧するだけでなく、大量の巣箱を持ち込んで養蜂を始める。半分は取るが半分は蜂のために残すヒロインとは違い、彼らはすべての蜜を蜂から奪う。大掛かりな装置と人海戦術、たったひとりで蜜を集める彼女は、指をくわえて見ているしかない。自然と共生してきた人間と自然を蝕む人間。地球の環境と人間の豊かな暮らし、大切にすべきはどちらであるかをこの作品は問う。

湧水を飲み薪や柴を燃料にする、電気も通っていない人里離れた村の石造りの家で働きながら母を介護するハティツェ。隣の敷地にトルコ人一家が引っ越してきたのを機に彼女の日常は俄かに騒がしくなる。

はじめのうちは良好な関係を築いていていた。家長の父に養蜂のコツを教えたりもした。彼にこき使われて嫌気がさした子供たちを慰めてやったりもした。ところがトルコ人たちは仲買人の要望で無理な負担を蜜蜂にかけ、そのせいでハティツェが管理する巣が全滅したりする。クレームをつけるが取り合わない家長。妻子を養うために目先の利益ばかり追う彼は、虫や家畜はカネを産む道具くらいにしか考えていない。文明の利器を持つ一団が先住民の生活と自然を破壊して収奪する。人類が何万回も繰り返してきた悲劇が現代でも起きている。ミニマルな現象を追いつつも、そんな人類の歴史を再現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

驚くべきはドキュメンタリーとしてオスカー候補になった事実だ。脚本があるかのごとく展開し、ハティツェの周りで起きる出来事は劇的だ。膨大なショットをつないで物語風に編集しているのだろう、ハティツェを取り巻く変化だけでなく、カメラはキャラの内面まで深く踏み込んでいた。

監督  リューボ・ステファノフ/タマラ・コテフスカ
出演 
ナンバー  63
オススメ度  ★★★★


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