ひとり暮らしのリッチな老女を拉致し、介護ホームに収容する。裁判所の許可があり、その行為は合法的。あまりの展開の速さと強引さに、老女はなすすべもなくオロオロするばかり。その、身ぐるみはがされていく過程は強烈に不愉快。それでも身を乗り出してスクリーンを凝視するのは、ロザムンド・パイクの圧倒的な存在感に引き付けられるから。物語は、強欲で狡猾な法定後見人が思わぬトラブルに巻き込まれる姿を追う。老女には家族も身寄りもいないはずだった。だが、ホームに閉じ込めた老女を正体不明の男たちが暴力的に奪還しようとする。ところがヒロインはまったくひるむことなく、交渉も決裂。殺すと脅されても顔色一つ変えず、“知らないものは怖くない” と言い放つ。そんな彼女は、フェミニズム全盛時代における “闘う女” の中でも最高にクールだった。
主治医に偽の診断書を書かせて後見人となり、高齢者の財産をむしり取るマーラ。ジェニファーを次のターゲットに定めるが、ジェニファーはロシアマフィアのボス・ローマンの母だった。
ジェニファーの家財屋敷を売り払い、貸金庫にあったダイヤを盗むマーラ。犯罪組織を敵に回したと気付くが、おじけづくどころかむしろ闘志を燃やす。高い知性と迅速な行動力を持ちながらほんのわずかな良心も善意もないマーラには、もはやなんの感情移入もできず、早くロシアマフィアから制裁を受けることを願うばかり。これほどまでに嫌悪感を抱くヒロインがかつて描かれたことがあっただろうか?
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ローマンはマーラをなだめすかしジェニファーを取り戻そうとするが、マーラは妥協しない。実力行使に出たローマンはマーラを拉致し、尋問するが、マーラは絶対に弱みを見せない。恐怖や不安、躊躇や譲歩といったあらゆるネガティブな思考が欠如し、相手を徹底的に打ち負かすことしか考えないマーラは、ダークヒロインの新たなベンチマークになるだろう。マーラが反撃に転じてから後のアクションシーンがややご都合主義的なのが気になったが。
監督 J・ブレイクソン
出演 ロザムンド・パイク/ピーター・ディンクレイジ/エイザ・ゴンザレス/クリス・メッシーナクリス・メッシーナ/ダイアン・ウィースト
ナンバー 228
オススメ度 ★★★★