こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

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人物や背景・小物の配置から計算しつくされた色彩と構図は洗練されたグラビア雑誌のよう。そこで繰り広げられるエピソードの数々はイマジネーションに満ち、人間の欲望をコミカルなオブラートに包む。物語は、米国新聞の付録雑誌を製作する編集部員たちの取材記録を追う。現代絵画をめぐる思わぬ発見と皮肉、抵抗する若者たちのひねくれた情熱、誘拐事件の驚きの顛末etc. 現場に飛び込んで体験した記者ならではの息遣いが聞こえるようなディテールが追及される一方で、映像はおとぎ話のような非現実感を併せ持つ。事実をストレートに報道する新聞とは違う、読者の知らない世界の出来事を深堀する雑誌ジャーナリズム。その対象に密着するプロセスにおける会話の数々が、まだ記者や編集者といった活字文化に携わる仕事が知的特権階級だった時代の空気を強烈ににおわせる。

フランスの某都市にオフィスを構えるフレンチ・ディスパッチ誌編集部では、今日も経費や記事内容に不満を持つ編集長の怒声が飛び交い、記者やスタッフがせわしく立ち働く。

批評家のベレンセンは、服役中の重犯罪者・モーゼスが描いた絵で一儲けを企む画商の話を始める。抽象的な裸婦像は画商のインスピレーションを刺激、画商は刑務所に赴いて直談判、考えを読めない目をしたモーゼスと独占契約を結ぶ。モーゼスは獄中で芸術的才能を開花かせるが、その評判は彼にとって意味はない。絵を描きたいから描くというオチは、富や名声に興味がない生き方をする人間の純粋な魂が凝縮されていた。モーゼスのモデルを演じたレア・セドゥの豊満に熟した肉体が芳香を漂わせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

バリケードに閉じこもる学生たちをリポートしたエピソードは、要求が男子学生の女子寮への入寮許可というのが笑える。直接顔を合わせて話をし、フィーリングが合えばカップル誕生となるプロセスは、アプリに頼った出会いよりもよほど刺激的。友情や恋が芽生えたり壊れたり、そのワクワクドキドキ感が新鮮だった。ノスタルジーに寄らない散文的叙述が心地よい後味を残す。

監督     ウェス・アンダーソン
出演     ビル・マーレイ/ティルダ・スウィントン/フランシス・マクドーマンド/ジェフリー・ライト/オーウェン・ウィルソン/ベニチオ・デル・トロ/エイドリアン・ブロディ/レア・セドゥー/ティモシー・シャラメ/リナ・クードリ/マチュー・アマルリック/リーブ・シュレイバー/ウィレム・デフォー
ナンバー     20
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html