こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウエスト・サイド・ストーリー

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細かいテクニックとスピードを競うかのような現代のダンスとは異なった、優雅かつ流麗な振り付けは時を経ても色あせていない。もちろん音楽や歌も。すでに完成品として映画史に残る傑作をあえてリメイクする意味があるのかと思ったが、より洗練されたカメラワークと演出は予想をはるかに上回るエンタテインメントに昇華されていた。目くるめく躍動感、心にしみる旋律と歌詞、異なる出自や文化を持つグループ間の対立、そして禁断の恋。時代を超えて横たわるさまざまな問題はいまだ解決されたとはいえず、怒りとの果てにある暴力は悲しみと新たな怒りしか生まない。敵を愛せるのか、いや愛した相手が敵だった時に理性的に行動できるのか。愛よりも憎しみが勝る世界、トラブルを相互理解で解決するなどという理想は現実に押しつぶされるとこの作品は教えてくれる。

白人貧困層ジェッツのリーダー・リフとプエルトリコ移民シャークスのリーダー・ベルナルドは、決闘に合意、翌日の夜に決着をつける算段を進める。

地元の刑事がジェッツのメンバーに説教を垂れるシーンが格差の底辺で生きるしかない白人たちの現実を訴える。成功した移民はこの街を出ていったのに、飲んだくれのぐうたらな両親の元に生まれたせいで彼らはスラムにくすぶっている。まさしく親ガチャのハズレ、将来に展望を持てない彼らの絶望がリアルだ。一方のプエルトリコ人はNYで成功しようと安い給料でもみな勤勉に働き英語を覚えようとしている。むしろ貧しい故郷には帰れないと退路を断ち向上心はジェッツよりも上。その構図はまるまる2020年代にも当てはまる。移民を受け入れ経済の活性化を図る、それが米国の成長の歴史なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ダンスホールでお互いに一目ぼれしたトニーとマリアはお互いの属性を知って自分たちこそ新しい時代の希望になれるかもと考える。初めてのデートでマンハッタン北端にある修道院のような美術館で結婚式を挙げるシーンは非常にロマンティック、ふたりのシルエットが愛と希望の切なさを象徴していた。

監督     スティーブン・スピルバーグ
出演     アンセル・エルゴート/レイチェル・ゼグラー/アリアナ・デボーズ/デビッド・アルバレス/ジョシュ・アンドレス/リタ・モレノ/マイク・ファイスト
ナンバー     29
オススメ度     ★★★★


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