こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

英雄の証明

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確かに魔が差しそうになった。でもそこは正直に話した。なのに一度芽生えた疑惑は急速に広がり、個人ではどうすることもできない。物語は、拾った金貨を持ち主に返したのに嘘つき呼ばわりされた男の苦悩を描く。元々借金のせいで服役していて、社会的信用は薄い。だからこそ、返済するためにきちんとした仕事に就こうとはしている。だが、金貨の持ち主の連絡先を聞いていなかったせいで、その事実さえ捏造と決めつけられる。証人は姉と息子だけ。証明しようにも持ち主の居場所はわからない。善意の英雄としてマスコミで取り上げられた後だけに、余計に立場が苦しくなる。さらに家族にもまだ言えない秘密を抱えた男は、小さな嘘を重ねるうちに自分の立場をもっと悪化させていく。そんな不条理に飲み込まれ身動きが取れなくなる主人公の気持ちがリアルに再現されていた。

休暇で出所していたラヒムは、恋人が拾った金貨の存在をポスターで告知する。刑務所に戻ったラヒムの代わりに姉が落とし主に金貨を返すと、その話が刑務所長の耳に入る。

プロパガンダに使えると判断した署長は刑務主任とともにラヒムをTVに売り込む。恋人の存在を隠したいラヒムも自分が拾ったことにしてインタビューを受ける。だが、肝心の落とし主は名乗り出てこない。作り話ではないのか? ラヒムの債権者が思ったことを口にすると、同じような投稿がSNSで拡散される。落とし主が見つからない以上、ラヒムの立場は悪くなるばかり。今までラヒムを持ち上げてきた人たちが掌返しをする過程は、現実社会でもネットの世界でも、人々は英雄よりもスケープゴートが求めているという事実をあぶりだす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

慈善団体からあっせんされたオフィスに面接に行くと、そこでも金貨事件について詳しい説明を求められる。どうしたら信じてもらえるのか。人を傷つけない嘘もついてはいけないのか。一度失った信用はもう取り戻せない。体制側にも逆らえない。少し教条的ではあるが、真実だけが人間を幸せにするとこの作品は教えてくれる。

監督     アスガー・ファルハディ
出演     アミール・ジャディディ/モーセン・タナバンデ/サハル・ゴルデュースト/マルヤム・シャーダイ/アリレザ・ジャハンディデ/サレー・カリマイ
ナンバー     64
オススメ度     ★★★*


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