こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

遺灰は語る

遺灰は故郷・シチリアに撒いてほしい。だが、世界的な文豪が遺した願いは放置され、10年の月日を経てやっとその遺志は動き出す。物語は、イタリアが誇るノーベル賞作家の遺灰をめぐる騒動を描く。国民には支持された。ところがその名声は時の独裁者に利用され、故人の思いは無視された。それでも自由な時代がやってくると事態は好転する。一方で、人々は復興に忙しく文学者の遺灰などにかまっている余裕はない。ローマからシチリアへの道中、運搬担当者は遺灰を粗末に扱うわけにはいかず、心身ともに筆舌に尽くしがたい苦労を背負う。そんな大変な思いをしてまで運んだ遺灰なのに、棺に納めて街を練り歩く葬列は “小人の葬儀” と子供に笑われる始末。労多くして功少なき任務にひたすら身を捧げる担当者の目が哀しかった。

死後火葬されローマに安置されたままになっていたピランデッロの遺灰を、シチリアの特使が回収にくる。飛行機で運ぼうとするが、米国人機長はフライトを一方的にキャンセルする。

飛行機の乗客たちは死者が同乗するなど縁起が悪いと降機、当時のイタリア旅客機は米国人が運用していたのか、客のいない飛行機は飛ばしてくれない。仕方なく陸路をたどるが貨車と客車の区別もないような粗末な列車に乗る羽目になる。大きな木箱に納められた骨壺、特使は中身を傷つけないように気を使いながらなんとかシチリアまで運ぶ。なのに、カトリックの司祭は壺が気に入らず、また棺も子供用しかないため、遺灰は小さな容器に移される。あふれだした遺灰は無造作に新聞紙の上に落ちるが、特使はそれを丁寧に集めて海に撒く。ピランデッロの本来の希望がやっと叶えられた瞬間は、地中海の明るい緑こそシチリア人の心のよりどころであることを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

色彩を得たのち、ピランデッロの短編を映像化する。シチリアからNYに移民後、オープンした父のレストランを手伝っていたのに衝動殺人に走ってしまった少年を襲う不条理劇は、圧倒的な孤独こそが人生の本質だと教えてくれる。

監督     パオロ・タビアーニ
出演     ファブリツィオ・フェラカーネ/マッテオ・ピッティルーティ/ロベルト・ヘルリッカ
ナンバー     119
オススメ度     ★★★


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