こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大名倒産

突然の命令で殿さまを継いだと思ったら、藩は壊滅的な借金を抱えている。期限までに返済できなければ、待っているのは切腹の運命。物語は、小藩の殿の落とし胤が財政立て直しを断行し、改易寸前の藩を活性化させる姿を描く。悪徳商人と結託した先代は失敗の責任を後任に押し付けたまま楽隠居、むしろ甘い汁を吸い続けるために改革の足を引っ張る。部下たちもお手並み拝見とばかりに積極的には協力しない。すべての泥を一身にかぶるかもしれない状況で、幼馴染の娘の商才を借りて次々と無駄な出費を抑制していく。その過程は、倒産寸前の同族経営中小企業に指名された雇われ社長が社員の意識を変え可能性を信じ希望を与えていくという現代のサラリーマン小説そのもの。杉咲花扮する娘の歯切れ良い物言いが心地よい。

塩引鮭職人になるのが夢だった小四郎は、藩の役人に迎えられ江戸屋敷に向かう。幕府老中から巨額の未納金を指摘され、藩財政の抜本的な改善を迫られる。

偶然再会したさよを相談相手に、旧弊を撤廃し徹底的な倹約を始める小四郎。一方で先代藩主・一狐斎は藩を倒産させて幕府に負債の肩代わりをさせるのが唯一の救済策と、わが身の保身しか考えていない。民を救い藩を救い自分の命も救う。そんな奇手を探して奮闘するうちに側近の部下たちの小四郎を見る目に敬意が宿ってくる。変わらなければならないのに変われない人々ばかり、ならばリーダーが率先して変革を実践するしか組織は進化しないと小四郎の背中は教えてくれる。あくまでコミカルタッチにこだわった映像は軽妙で、時代劇らしいシンプルな設定は先が読めているからこそ安心して見ていられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も一孤斎一派の邪魔が入る中、結託している商人と幕府高官の癒着、わいろ要求など様々な腐敗が帳簿の精査で明らかになっていく。ひとりでは何もできない、だが、献身的な協力者を得て粉骨砕身の意気で頑張れば周囲もついてくる。明確なビジョンと実行力こそが大きな仕事を成し遂げるリーダーの資質だと小四郎は教えてくれる。

監督     前田哲
出演     神木隆之介/杉咲花/松山ケンイチ/小日向文世/小手伸也/ 桜田通/宮崎あおい/キムラ緑子/梶原善/勝村政信/石橋蓮司/高田延彦/浅野忠信/佐藤浩市
ナンバー     118
オススメ度     ★★★


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