こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大統領の理髪師

otello2005-02-21

大統領の理髪師 孝子洞理髪師

ポイント ★★★★
DATE 05/2/14
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 イム・チャンサン
ナンバー 22
出演 ソン・ガンホ/ムン・ソリ/リュ・スンス/イ・ジェウン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


民主化運動、反共、軍事独裁。現代韓国の礎になった激動の時代を小心な一庶民の目を通してユーモラスに描く。大統領=国家という鉄の掟が支配する官邸で大統領の頭髪を調える恐れ多いという気持ちと、家族を誇りに思い愛する理髪師の繊細な心の動きをソン・ガンホが見事に演じている。


大統領官邸のお膝元の街で理髪店を営むハンモの店に大統領警護隊長が現れ、大統領専属理髪師にスカウトする。劇的に変わる日常生活の一方、ハンモのひとり息子・ナガンは共産スパイの疑いをかけられ拘束、拷問を受けたせいで両足が立たなくなってしまう。


ハンモの政権に対する距離感、これこそがこの作品に緊張と弛緩の微妙な綾を生んでいる。決して「専属理髪師が見た政権の内幕」のようなマクロなテイストにはせず、むしろ専属理髪師に選ばれたことで平凡な人生に波風が立つというミクロの視点に徹し、愛にあふれた物語を展開させるところが心地よい。妻とのなれ初め、息子の誕生と命名、近所づきあい、そんなありふれた日常を丹念に積み重ねることで、親子の情愛が強権政治に勝ることを強烈に印象付ける。特に息子のことになると親ばか丸出しで無条件に無限の愛を注ぐハンモの姿は、行動が愚直なだけに笑い以上に涙を誘う。


ただ、北朝鮮のスパイ潜入後の協力者狩りで、10歳にも満たない子供を拘束するだろうか。しかも電気による拷問までする。拷問シーンはあえてコミカルに描くにだがそれでも違和感は拭いきれない。大統領警護隊長とKCIAの対立が物語の裏にあり、このナガンに対する拷問がが後に起きる奇跡の伏線になっているのだが、もう少し他のアイデアはなかったのだろうか。政治の波に流されても飲み込まれずに生き抜いたこの理髪師が、最後に政治に対してささやかだが最大の抵抗を試みる場面には思わず快哉を叫んだ。


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