こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

運命じゃない人

otello2005-08-05

運命じゃない人

ポイント ★★★★*
DATE 05/8/4
THEATER ユーロスペース
監督 内田けんじ
ナンバー 95
出演 中村靖日/山中総/山下規介/板谷由夏
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


意表をつく展開、緻密な構成、そして孤独なはずの人間同士がどこかで少しずつお互いの人生に影響しあっているというアイロニー。人を疑うことを知らない純真な男を軸に、それぞれの思惑で動く男と女がお互いの秘密を知りながら利用したりだまされたりするという練りに練られた脚本は秀逸でインテリジェンスを刺激する。同じ時間内に5人の男女が繰り広げるドタバタ劇をさらりと描くセンスも抜群。登場人物の造形もウソくさくなる一歩手前で抑え、ひねりの利いたコメディに仕上がっている。


人のいいサラリーマンの宮田はある晩親友の探偵・神田に呼び出される。その場でナンパした寂しい女・真紀を自宅に泊める羽目になるが、そこに元彼女のあゆみがやってくる。真紀はあゆみの身勝手さをののしって飛び出すが、宮田は必死で真紀の後を追う。そして勇気をふりしぼって真紀の電話番号を聞きだすことに成功する。


宮田のプチハッピーな夜が、神田やあゆみの視点で見ると綱渡りだったという発想がよい。カネに目がくらんだふたりが宮田には遠慮しながらなんとかヤクザから逃げようとする。そのヤクザもまたカネのためにセコい事をする。手玉に取っているつもりが手玉に取られ、嵌めたつもりがは嵌められる。そのあたりの駆け引きは、登場人物ごとの視点で見た一夜の出来事をもう一度時間軸に沿って組み立てるという作業を観客に行わせることで、作者と観客との知的なゲームとしても成立している。


登場人物のセリフもよくリサーチされていてエスプリに富んでいる。捨てられた孤独な女、出会いや電話番号、ヤクザの親分の見得、彼らが口にする言葉の一つ一つがリアリティたっぷりで共感を呼ぶ。悩みや欲望を抱えて生きる人間がちょっとしたことでお互いに大きく関わって運命の歯車が狂うというドラマにちょうどよい加減に潤いを与え、物語に緩急を付けることも忘れていない。だまされて利用されたのに、それに気づかない宮田。映画は、かたくなに人を信じマイペースを貫く彼にだけはやさしい。彼が見せる笑顔は、この映画を見た者にまで伝染する。


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