こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミセス・ノイズィ

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迷惑なのは相手の方、こちらは常識的に応対しているだけ。一度掛け違えたボタンは新たな誤解を生み、やがて憎しみに増幅されていく。物語は、低層マンションの隣同士に住む女作家とおばさん主婦のご近所バトルを描く。なにを言っても全く通じない上に、幼い娘まで人質に取られる。理解不能の言葉を発して非難してくる。ところが、トラブルを連載小説のネタにすると読者から大うけ、作家の指はリズミカルにキーボードを走り始める。そしてネットの大いなる罠。単にモンスター隣人との戦いで終わらせるのではなく、引きこもりやメディアスクラムといったさまざまな社会の闇に登場人物を引きずり込む構成は予断を許さず、先の読めない展開はスピーディでスクリーンから目が離せない。

転居したばかりの新居でいきなり徹夜仕事をする真紀は、明け方隣人の美和子が布団を叩く音に邪魔をされ、やめてくれと頼む。その日の午後、美和子は娘の菜子を無断で公園に連れ出す。

その後も、真紀に遊んでもらえない菜子は美和子の部屋に長居する。それを仕返しと思い込んだ真紀は、美和子と決定的に決裂する。美和子の布団叩きは続き真紀のスランプは長引く。隣人が得体のしれない夫婦という恐怖と腹が沸くような憤り、だが真紀はそれらを文章に昇華させて逆に快感を覚えていく。さらにいとこがアップした動画もバズり、真紀は一躍時の人に。リアリティは体験からしか生まれないと真紀は身をもって学ぶ一方でYouTubeの影響力を利用して知名度を上げる。そんな、いかにも現代的な設定が自分の身の周りでも起こるのではという不安を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

美和子からみれば真紀こそ母親失格のクレーマー。心身症の夫を抱え息子には早逝されている実態が明かされるにつれ、彼女の言い分も一理あると思えてくる。結局はコミュニケーションを欠いたことから起きた悲劇、引っ越したらまず隣近所に挨拶すべしとこの作品は訴える。真紀の深い感謝と強い後悔を表現する篠原ゆき子の首筋と鎖骨周辺の筋肉の動きが印象的だった。

監督  天野千尋
出演  篠原ゆき子/大高洋子/長尾卓磨/新津ちせ/宮崎太一/田中要次/風祭ゆき
ナンバー  215
オススメ度  ★★★*


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