こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アバウト・ラブ

otello2005-10-04

アバウト・ラブ 関於愛


ポイント ★★★
DATE 05/8/25
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 下山天/易智言/張一白
ナンバー 103
出演 伊東美咲/チェン・ボーリン/加瀬亮/メイビス・ファン/塚本高史/リー・シャオルー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


言葉の壁を越えて愛が芽生えるか。片言で相手の国の言葉を話すことで大まかな意思の疎通はできる。しかし細かい感情や複雑な思考を伝えることは難しい。それでも懸命に自分の思いを伝えようとする。東京・台北・上海、大都会に埋もれそうになりながらも自分の居場所を探そうとする若者たちの姿がまぶしい。


東京にアニメの勉強に来た台湾人ヤオは、ある日美智子という画家が描いた絵に魅せられる。彼女が渋谷で涙を流していた女と知って、ヤオは彼女の似顔絵を毎日送る。台北では失恋したばかりのアスーが真夜中に鉄ちゃんを呼び出し、自分を振った男のところに押しかける。上海に留学している修平に、下宿先のアパートの娘・ユンは密かに思いを寄せているが、修平はユンの気持ちに気付かない。


東京編がいちばん物語が作りこまれていて楽しめる。渋谷の交差点で台湾人留学生がぶつかった、失恋を引きずって泣き顔で歩いていた若い女性画家。彼女が作品描いているアトリエを偶然見つけた留学生は、毎日彼女の元に似顔絵を届ける。似顔絵の泣き顔がやがて笑顔に変化していく過程は、東京に勉強に来たはずなのにいまだに日本に溶け込めない留学生の孤独が癒される様子と重なる。作品の中に一貫して流れるピンと張り詰めた空気がとてもすがすがしい。


台北編は凡庸で見るべきところはないが、上海編は日本人留学生に心をときめかせる雑貨屋の娘の感情が細やかに描写されていて、同情を誘う。自転車を同じ色に塗り、髪型を好みのスタイルに変え、破かれた絵葉書に書かれた日本語を必死に訳す。年頃の娘なら誰もが経験するような憧れの人への一途な恋が健気で初々しく、さらに古い街並みがノスタルジックな雰囲気を盛り上げる。しかもその古い街並みが開発の波に飲み込まれ、彼女の思いとともに消えていくという皮肉。人情よりも経済発展が優先する現代中国を象徴するようなシーンを挿入することで、このエピソードは単なる恋愛話の範疇を超えた普遍性を持つ。


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