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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬

otello2006-03-22

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
THE THREE BURIALS OF MELQUIADES ESTRADA


ポイント ★★★
DATE 06/3/17
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 トミー・リー・ジョンズ
ナンバー 40
出演 バリー・ペッパー/ドワイト・ヨーカム/ジャニュアリー・ジョーンズ/フリオ・セザール・セディージョ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


友との約束を果たすために馬で荒野を渡る初老の男。自分の利益にならないとわかっていても、義理を重んじ不正を憎む。それは現代では失われた古き男の心意気だ。頑固なまでに自分の流儀を押し通し、腐敗しつつある友の遺体を運ぶ姿は崇高な使命感をまとい、荒涼とした砂漠の風景すら美しく見せる。精神の軟弱な人間を決して寄せ付けない孤高の空間を、トミー・リー・ジョーンズは抑制の効いた演出で見事に表現している。


国境警備隊のマイクはある日メルキアデスというメキシコ人カウボーイを誤射殺し、死体を荒野に埋める。メルキアデスの友人・ピートは掘り返された遺体を引き取り、メキシコにある彼の故郷に運ぼうとする。その過程でマイクを拉致、ピート、マイクそしてメルキアデスの遺体は米墨国境の砂漠地帯を馬で越え、やがてメルキアデスの故郷の村にたどり着く。


不法移民を逮捕するだけでなく暴行を加える国境警備隊員の荒っぽさ。特にマイクは女でも平気で殴る。そんな男が旅をするうちにメキシコ人もまた同じ血の通った人間であることに気づいていく。けがを治療してもらい食料を分けてもらう。彼がさげすんでいたメキシコ人のほうがずっと他人への思いやりが強い。ピートとの旅を通して、虫けらくらいにしか思っていなかったメルキアデスの命を奪ったことに強烈な呵責を感じるまでになる。マイクの姿はすべての人種や国籍に関係なく人間の尊厳は守られるべきものだということを強烈に訴える。


苦労の末、ピートとマイクはメルキアデスの故郷近くにたどり着く。しかし、彼が話した家族は別人で故郷の村もない。メルキアデスがピートに語った故郷の話は嘘なのか。写真まで用意してなぜそんな嘘をついたのか。映画は答えを出してくれない。不法移民として移民局の目におびえながら生きていても、自分には幸せな家庭があると親友のピートに見栄を張りたかったのだろう。そんな、米国内では不法な「幽霊」として生きることを余儀なくされ、メキシコでも存在しない「幽霊」だったメルキアデスの心情が悲しい。ただ、メルキアデスの死の真相がわかるまでの前半、時間軸が交錯してわかりづらい。こんな小手先の編集テクニックは必要ない。


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