W杯優勝の熱狂に加わる程度には愛国心はある。しかし、日常に戻ると溜まった鬱憤は爆発寸前のまま。物語は、パリ近郊の移民が多く暮らす団地の暑い一日を描く。黒人とアラブ系とロマしかいないが、一応商店もあり市も立っている。生活に忙しない住民はとりあえず平穏を保とうとしている。そんな街に赴任してきた刑事は、偏見に凝り固まった先輩刑事の背中を追ううちに、強烈な違和感を覚えていく。不法移民や違法ドラッグの巣窟であるのは間違いない。だが、まともな職もなく犯罪の道に進むしかない彼らの気持ちを白人たちは理解しない。豊かなあごひげを蓄えた黒人モスリムだけが穏やかな態度で少年たちの面倒を見る。格差の最底辺に生きる貧困層の、常に不満のはけ口を求めるようなまなざしが印象的だった。
新任のステファンは先輩のクリス、グワダと共に所轄をパトロール、重要人物を教えられる。ロマのサーカス団の子ライオンが黒人少年にさらわれたことから、ロマと黒人の間に一触即発の緊張が走る。
故郷にいるよりはマシとパリにやってきたのに、貧しさは故郷と変わらない。さらに差別が待っている。この地で生まれた移民2世は、フランス国民として正当な扱いを受けられない屈辱に耐えている。クリスは彼らを犯罪予備軍と決めつける一方、黒人コミュニティの有力者にライオン探しを手伝わせる。とはいえ黒人間にもさまざまなグループがあり、モスリム系は一大勢力。戒律は厳しいが住民にはやさしく接し、行き場のない少年たちに安らぎを与えていたりする。こんなところから自爆も辞さないテロリストが養成されているのだろう。その下地がリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ステファンたちはライオンを盗んだ少年を捕まえるがグワダがゴム弾を発砲、少年は負傷する。刑事たちはライオンをサーカスに返し、少年にも詫びを入れさせる。ところがこれで一件落着とはならない。抑圧されてきた人々の感情は些細なきっかけで沸点に達する。少年が手にした炎が彼らの怒りを象徴していた。
監督 ラジ・リ
出演 ダミアン・ボナール/ジャンヌ・バリバール/ジェブリル・ゾンガ/アレクシス・マネンティ
ナンバー 45
オススメ度 ★★★