こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぼくを葬る

otello2006-05-03

ぼくを葬る LE TEMPS QUI RESTE


ポイント ★★★
DATE 06/4/25
THEATER シャンテ・シネ
監督 フランソワ・オゾン
ナンバー 62
出演 メイヴィル・プポー/ジャンヌ・モロー/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/クリスチャン・センゲワルド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


仕事も私生活も比較的順調な人生半ばの男が、突然命の期限を突きつけられたとき、どういう行動を取るか。取り乱し、他人に理不尽に振る舞い、自分の殻にこもってしまう。しかしやがてその運命を受け入れ、折り合いをつけることを覚える。死は誰にでも平等に訪れる。それをどのように受け入れるか、主人公の行動を通して普遍的な真理に到達する過程が美しい。そう、人は誰でも自分の人生を肯定したいものなのだ。


写真家のロマンは、ガンで余命3ヶ月と宣告される。自暴自棄になったロマンはゲイ恋人と別れ、両親や姉にも暴言を吐いて当り散らす。ただ、自分のことを理解してくれる祖母にだけは本当のことを告げようと、ドライブの旅に出る。そして、その途中で知り合った女から思わぬ申し出を受ける。


医師の診断を聞いた後、ロマンが見る世界が一変するシーンが心に突き刺さる。道行く人や公園で寝そべる人、何気ない街の風景が急にかけがえのないものに感じられるのだ。この感覚の変化が生々しいほどリアル。一瞬ごとに命のタイムリミットが近づいていることを自覚し、ロマンは目にしたものをデジカメにおさめ始める。仲たがいしていた姉と電話で和解し、彼女と赤ちゃんに向けてそっとシャッターを切るシーンは、凝縮されたロマンの想いが堰を切ったようにほとばしる。


心のしこりをすべて取り除いたあと、最後に知り合った女のために代理父をつとめ、その子に相続権を与える。ゲイの自分が遺伝子を残す。もはや思い残すことは何もない。頭を丸たうえ頬がそげ、やせ細って顔色も悪いのに、ロマンの表情は晴れ晴れしい。そして太陽が降り注ぐ海岸に寝そべり、水平線に沈む夕日が彼の死を告げる。「生きる」の主人公のように生きた証を残そうと精力的になるのではなく、ただ家族・恋人いった最小限の身近な人間だけを過去を清算する対象に選び、子供に未来を託す。その姿勢があくまでも潔く、主人公の死すら心地よい余韻を残す。


↓メルマガ登録はこちらから↓