こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ニュー・ワールド

otello2006-05-01

ニュー・ワールド THE NEW WORLD


ポイント ★★★★
DATE 06/4/23
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 テレンス・マリック
ナンバー 61
出演 コリン・ファレル/クリスチャン・ベール/クオリアンカ・キルヒャー/クリストファー・プラマー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


波乱に満ちた人生の新たなる始まりを告げるのか、世界の崩壊が始まることを予告しているのか。ヒロインのライトモチーフとして用いられる「ラインの黄金前奏曲は、その美しく優雅な旋律のなかに彼女の急激な運命の変転を内包する。森や川と共に暮らし自然のなかで人間らしい暮らしをしていたアメリカ先住民と、厳しい統制の下で自然を征服しようとするイギリス人の邂逅。科学文明において圧倒的な差があるふたつの世界で生きることになったヒロインの心情を、詩的な映像にモノローグを重ねることで余情たっぷりに描く。


17世紀初め、北米大陸にやってきた探検家・スミスは先住民リーダーの娘ポカホンタスと恋に落ちる。しかし、開拓民と先住民の間に戦争が始まり、ポカホンタスは開拓民の捕虜となる。スミスは自分の死を偽装し、ポカホンタスは入植してきたイギリス人貴族と結婚する。


スミスが初めて体験する先住民たちの価値観の清潔なこと。モノを私有せず、嘘を知らず、嫉妬や裏切りという概念すらない。潔癖なスミスにとってはまさに理想郷。しかし、それが程なく破壊されることはスミスも知っているはず。だからこそポカホンタスを遠ざけ、忘れようとするのだ。そしてポカホンタスはイギリス風の服を着せられ、名前まで変えられてしまう。


もちろん彼女にアイデンティティなどという概念はなかったはずだ。しかし、英語を覚えマナーを身につけていくうちに彼女は笑顔をうしなっていく。その代わり心の中の母親に頻繁に話しかけるようになる。イギリスに招かれた彼女はもはや先住民の面影はなく、イギリス国王が好むタイプの「先住民のプリンセス」。そこにはスミスと無邪気に愛を交わしたころの明るさはなく、ただ運命に翻弄された疲労感だけがにじみ出ている。彼女にとっての「ニュー・ワールド」は文明の光に満ち溢れたものではなく、スミスと再会することで愛の残骸だけが残った陰鬱な世界に堕ちてしまったことを、彼女のライトモチーフはラストでも能弁に物語っていた。


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ニュー・ワールド THE NEW WORLD


ポイント ★★★★
DATE 06/4/23
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 テレンス・マリック
ナンバー 61
出演 コリン・ファレル/クリスチャン・ベール/クオリアンカ・キルヒャー/クリストファー・プラマー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


波乱に満ちた人生の新たなる始まりを告げるのか、世界の崩壊が始まることを予告しているのか。ヒロインのライトモチーフとして用いられる「ラインの黄金前奏曲は、その美しく優雅な旋律のなかに彼女の急激な運命の変転を内包する。森や川と共に暮らし自然のなかで人間らしい暮らしをしていたアメリカ先住民と、厳しい統制の下で自然を征服しようとするイギリス人の邂逅。科学文明において圧倒的な差があるふたつの世界で生きることになったヒロインの心情を、詩的な映像にモノローグを重ねることで余情たっぷりに描く。


17世紀初め、北米大陸にやってきた探検家・スミスは先住民リーダーの娘ポカホンタスと恋に落ちる。しかし、開拓民と先住民の間に戦争が始まり、ポカホンタスは開拓民の捕虜となる。スミスは自分の死を偽装し、ポカホンタスは入植してきたイギリス人貴族と結婚する。


スミスが初めて体験する先住民たちの価値観の清潔なこと。モノを私有せず、嘘を知らず、嫉妬や裏切りという概念すらない。潔癖なスミスにとってはまさに理想郷。しかし、それが程なく破壊されることはスミスも知っているはず。だからこそポカホンタスを遠ざけ、忘れようとするのだ。そしてポカホンタスはイギリス風の服を着せられ、名前まで変えられてしまう。


もちろん彼女にアイデンティティなどという概念はなかったはずだ。しかし、英語を覚えマナーを身につけていくうちに彼女は笑顔をうしなっていく。その代わり心の中の母親に頻繁に話しかけるようになる。イギリスに招かれた彼女はもはや先住民の面影はなく、イギリス国王が好むタイプの「先住民のプリンセス」。そこにはスミスと無邪気に愛を交わしたころの明るさはなく、ただ運命に翻弄された疲労感だけがにじみ出ている。彼女にとっての「ニュー・ワールド」は文明の光に満ち溢れたものではなく、スミスと再会することで愛の残骸だけが残った陰鬱な世界に堕ちてしまったことを、彼女のライトモチーフはラストでも能弁に物語っていた。


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