こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マーダーボール

otello2006-10-10

マーダーボール MURDERBALL


ポイント ★★★*
DATE 06/8/18
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 ヘンリー・アレックス・ルピン/ダナ・アダム・シャビーロ
ナンバー 132
出演 マーク・ズパン/ジョー・ソアーズ/キース・キャビル/アンディ・コーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


装甲車のような補強をした車いすが激突し、あふれ出す感情が咆哮となってこだまする。不自由な身体に対する絶望から這い上がり、車いすを自由に操ることで人生を取り戻した男たち。彼らはそこで満足することなく、車いすラグビーという更に過酷なスポーツに身を投じていく。もはや心身のリハビリというレベルなどでは到底なく、勝つためには何をすべきかを厳しく問われる世界。自らのアイデンティティを確認するために男たちは涙をこらえ汗を流す。その勝利に対する執念は、勝者のみが賞賛されるという米国社会の正確を色濃く反映する。


2002年、イエテボリで開かれた車いすラグビーでカナダに初黒星を喫した米国チームは、ズパンを中心にチームの再建を図る。事故や病気で四肢障害を持った選手たちのバックグラウンドを追いながら、2004年のアテネパラリンピックに臨む。しかし、アテネでは今までとは比べ物にならないほど競技レベルが向上していた。


言い古されたことだが、車いすの障害者たちも健常者と同じように怒り、喜ぶし、闘争心も性欲も当然ある。むしろ本人たちは口にしないが、自分たちが役に立たない社会のお荷物と思われたり、健常者に過剰に気を使われることに敏感になるあまり、必要以上に自分の強さを鼓舞するようなところさえある。そのあたりがまた人間くさく、車いす競技者たちをより魅力的に見せる。嘆いたり悲しんだりしても体は元に戻らない。ならば与えられた条件で精一杯生きようという前向きな姿勢が胸を熱くする。


特に、米代表をはずされた後ライバルのカナダチームのコーチになった男など自分の向上心に忠実で、その「裏切り行為」さえ作り物でないリアルを伴って映画の血肉となっている。ただ、車いすラグビーならではのあっと驚くようなスーパープレーや、対カナダ戦のために練った米チームの秘策など、試合での見せ場が乏しいのは残念だった。ドキュメンタリーだから、そんなにうまくいいシーンが撮れるとは限らないのは分るが。。。


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